第8話

 翌日。

 アラームの音で目を覚ますと、いつもの部屋ではなかった。


(ああ、そうか。寮だった)

 体を起こして伸びをする。制服のサイズ変更が今日までだったことを思い出し、袖を通してみる。


「ちょっと大きめかなぁ……」

 肩幅やウエストが一回りほど大きく、ぶかっとした印象だ。


 コンコン

「エイミー起きてる? 入っていい?」

 しずだ。

「うん」


 しずは既に起きてしばらく経っているのか、ティーシャツに短いスボンを履いていた。形の整った脚が羨ましい。


「いいじゃん制服! 似合ってるよ」

「そう? 大きくないかな……」

「七先輩と昨日話してたんやけど、エイミーは痩せすぎやで。これから筋肉も嫌でも付くし、大きめでええんちゃうかなぁ」


「じゃあいっか……スカート、ベルトで止めてるんだけど、これで合ってる?」

「合ってる合ってる。これから食堂で朝ごはんやし、部屋着に着替えて先生にも報告行こ」


 困った、と思った。


「あの、しず」

「ん?」

「私……」



「おはようございまぁす」

「おはよう。よう眠れた……って、なんで三人とも制服なん?」


 早速、川上先輩に指摘される。

 そう。隠岐先輩、しず共に制服を着ているからだ。


「久々宮先生にエイミーの制服を見せるためってのと、男子。学校案内は午後からな」

「え、なんで?」

 浅田君がキョトンとするも、冬はわかったらしい。


「わかりました。学校案内は一年で回ることにしたので、浅田と時間潰しときます」

「頼むわ。んで、肝心の久々宮先生は?」

「なんで俺に聞くんですか」

「一番知ってそうやんか」

「まだ夢の中じゃないですか。それか朝一番で仕事に駆り出されたか」

「さっすが冬。わかってるねぇ」


 うーんと腕を伸ばしながら、久々宮先生が食堂へと続く廊下を歩いてきた。初めて会ったときに着ていた白いパーカーを羽織って、眼帯もしている。


「朝からおつかれ〜先生」

「労ってくれるのはお前ら生徒だけだよまったく」

 首をこきっと音を立てながら回している先生に、しずが本題を切り出した。


「先生、エイミーが制服着てみたんですけど」

「お、早速? ああ、いいじゃん。大きめでちょうどいい」

 やはり先生も同意見のようだ。


「学校案内は午後からにして、女子三人で買い出し行ってきます」

「学校案内、俺か透先輩も居たらいいんだけど、その時までわからないからね。居なくても気にせず回ったらいいよ」

「りょーかいです」


 朝食はご飯かパンか選べたので、パンをトーストして食べる。いつもお腹が空いていても少しの量しか食べられなかったので、自分で食べたい分だけ食べられるのは幸せだ。



 その後、出かける前に共有スペースでしずと隠岐先輩を待っていたときだった。


「エイミーって呼ばれてるんだって?」

「久々宮先生」


 足音もしなかった。


「覚前だろ? あだ名付けたのは」

「はい」

「だろうな」


 私と向かい合うようにソファに座ると、何か封筒を取り出した。

「これ、今日使いな」


(お、お金……!?)


「いえ、その、貯金があるので……」

「もちろん俺から出してあげてもいいんだけど。封筒の中、見てくれるか」


 恐る恐る手にとって中を覗くと、現金と共に通帳も入っていた。


「その通帳は浄化師連盟からのお金と、仕事の給料が振り込まれる通帳だ。もうお前のものだから貯金もその中に一緒に貯めておいても、それは自由」


 中を見ると、浄化師連盟という名前の横に五万円の記載があった。そしてその額すべてが引き出されている。


「女子高生には少ないかもしれないけど、一応これでも交渉したんだ。必需品が全く足りてないからって言って、二万くらい増やしてもらってこれ」


 何もしていないのに五万円も振り込まれている経験なんて今までにない。今後は返さなくて良い奨学金のようにこの口座に振り込まれるそうだ。


「仕事のお給料とこのお金は何が違うんですか?」

「給料は連盟が出どころじゃないのもある。ただそれだけ」

「そうですか……」

「てなわけで取り敢えず、今日はこのお金で必要なものを買ってきな。貯金は大事にしておいた方がいい」


「……ありがとうございます」

「そうそう。連盟からもらえるものはもらうべし」


 先生はにっと笑って暖簾の先へ視線を向ける。するとちょうどしずと隠岐先輩が現れた。肩掛けカバンの中に現金と通帳も入れる。


「んじゃ、いってらっしゃい。女子会楽しんでこいよ〜」

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