京都へ
第6話
その日は再び荷物を持って、急遽取ったビジネスホテルに泊まった。そもそも荷物を開けていなかったので、家を出る用意は速かった。
二人で戦っていた間に久々宮先生が入学について、無理矢理首を縦に振らせたらしい。家の発言力にも差があるみたいだ。というのも、七柱とは古くからある浄化師の七つの家系で、久々宮家はその揺るぎない頂点の家らしい
「こういうホテルって泊まったことあるか」
「ううん、無い」
「そうか。まあ今後遠征があれば慣れるんじゃないかな」
外で夕飯を済ませ、ホテルに帰りながら話をする。冬が明日の朝は電話掛けるよと言ってくれたので、番号を交換してメッセージアプリで友だち登録をする。スマホ代は自分で払っているので問題なく使えた。
ユニットバスの使い方だけ何度も念を押されて別の部屋に入ると、急に静かになった。この静けさが好きだった。初めてインストールしたメッセージアプリの欄をぼーっと見つめる。登録されているのはもちろん一件だけだ。
(眠たい……)
簡単にシャワーだけ済ませると、眠気眼をこすって歯磨きをして、初めて使うベッドに横になった。初めてのベッドは、何かのご褒美のように感じられた。
ヴーッ、ヴーッ。
すうっと体に意識が浸透していく感覚がして、目が覚めた。充電していたスマホを確認すると、冬からだった。
(本当に電話してきてくれた)
「もしもし」
「お。おはよう。八時になったら朝ごはん食べに行くからな」
時計を確認する。20分前だ。
「うん。ありがとう」
身支度をして、祖父母からもらってずっと大切にしていたスカートとブラウスを着る。これ以外にはもう、外に出られる服がない。
五分前に鍵を持って部屋の外に出ると、エレベーターの近くの窓際でスマホを操作している冬の姿が目に入った。
「冬」
画面から顔を上げて、おはようと言葉を交わす。
「用意はやいな。いや……あいつらが時間かかるだけか」
ポケットの中にしまい、エレベーターのボタンを押すと、すぐにドアが開いた。
「電話ありがとう」
「よく眠れた?」
「うん」
「なら良かった」
「先生は?」
「あの人は放っておいて大丈夫」
「そうなんだ……」
昨日から思っていたが、先生の扱いに慣れている。師弟関係にもなればそんなものなのだろうか。
「今日は長距離移動になるから、しんどくなるなら程々にしておいたほうがいいぞ」
頷いたちょうどそのとき、エレベーターが止まった。ドアが開くと、パンの焼けるいい匂いが鼻を突いた。
「バイキング形式、初めて?」
「うん。初めてのことばっかり」
「そうか。じゃ、一緒に行こ」
バイキングとは楽しいもので、自分の好きなものを食べることができる。今まではまかないのあるバイトに入っていたので食事にはあまり困らなかったが、バイトのない日は食事を抜いたこともしばしばあった。
ご飯を食べ終え用意を済ませると、ドアがノックされて出発の時間になった。先生もいつの間にか起きて準備を終え、ラフにスーツを着崩し眼鏡を掛けている。
「眼帯……」
「ああ、あれは仕事のときだけ。目元の傷が隠せる特別仕様なんだよねこれ」
ホテルから出て駅に行くと、初めて新幹線に乗った。小さな窓から移り変わる景色が一瞬で流れていく。隣では冬も先生も寝ていて、二人とも新幹線が苦手なのかもしれない。
次は、京都。京都です。
「おっ、着いた? 降りるよ冬。起きて」
先生が冬を起こすと荷物を持ってドアに向かった。窓から外を覗いているとゆっくり停車し、ドアが開かれて外に降りる。
大きな駅。たくさんの人。のまれそうになるのをなんとか二人の後ろについて進んでいく。
「二人とも着いてこれてる?」
「御月、大丈夫か」
「大丈夫。なんとか」
白と赤の京都タワーが見えるところまで来ると、先生が電話を始めた。
「迎え呼んでるんだろ、たぶん」
「迎え?」
どうやら4月から担任になる先生が車で迎えに来てくれるらしい。ひらひらと久々宮先生が手を振ると、灰色のワゴン車が近くに停まった。ドアが開いて男の人が出てくる。
「お疲れさんで〜す」
「そっちこそな。揉めたんか?」
「揉めないわけないでしょう」
軽い口調ではあるが、久々宮先生が敬語だ。歳上なんだろう。相手の先生は京都らしい関西弁を使っているので、独特のイントネーションがかかっている。
「じゃ、早速紹介しまーす。この子が例の栄明寺御月ね」
「よろしくお願いします」
「4月から担任を持つ、渡辺
ペコリと頭を下げると、渡辺先生も同じように挨拶をした。浄化師界にも色々なタイプの人がいるらしい。
「さあ、乗りなさい。久々宮は助手席やで」
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