第4話

 その日の昼前。

 何か、嫌な予感がしていた。


(なんだ……この違和感)


 ホテルで簡単に食事を済ませると、昨日栄明寺御月と会った公園へ向かう。ここから遠くないはずだ。あらかじめもらっていた地図を見ながら家に向かう。


「これは……まさか」


 昨日の夜彼女と会ったあと、回り道して確認したときとは空気が違う。何か、核が抜け落ちたかのような感覚。


 それを感じ取ったとき、咄嗟にスボンのポケットにあるスマホに手が伸びていた。


「ん〜? どしたあ?」

「どしたあ? じゃないですよ。やられました」

「……ああ、そういうこと? あっはは、度胸あるね」


 笑い事ではないのだが。


「どこに連れて行ったか目星は」

「すぐ行けるよ。鈍行でもいいんじゃない? 取り敢えずホテルに戻って来な」

「んな呑気にしてていいんですか」

「まあそう焦らない焦らない。あんまり遅いと飲んじゃうからね〜」


 ツーッ、ツーッ……


「んの酒豪が……」


 ホテルに帰ってくると、先生は売店で時間を潰していた。関東の地酒を興味津々に見てこちらを全く気にしていないので、そそくさと部屋に戻って荷物をまとめて戻る。


「おっ、来たね。行くよ」


 こういう用意の良いところは尊敬できるところだ。




 バスッ!


「え……?」


 黒いものの真ん中に、白い弾丸のようなものが突き刺さっていた。それが溶けて黒い表面に広がり、中和していく。


「大丈夫か」

 聞き覚えのある声が響く。


「き、昨日の……」

「よっ、俺もいるよ」


 右目を黒い眼帯で隠した、30代前半くらいの男の人も顔をのぞかせる。二人とも同じような白いパーカーを着ていた。もう一人は誰だろうと思っていると、その顔を見て家族、雲林院家の使用人以外全ての人間の表情が、一斉に恐怖に変わった。


「く、久々宮家の!」

「やあ久しぶり、会えて嬉しいよ。いつからそんなに偉くなったんだっけ?」

 軽快な文言とは裏腹に、低い声が圧を感じさせる。


「俺との約束を反故にできるほど力あったっけ。ありえないんだけど」


 むくり。


「久々宮さん、雑談は程々にしてください。また復活してます」

「よし、じゃあ入学前課題だ。これ、倒して」

「はあ!? これ絶対『タメ』以上でしょう!?」

「さっ、お願いね」


 そう言って靴を脱ぐと、つかつかと畳の上に上がってきた。そして私の前に屈むとじっと見つめて、そして笑った。


「間違いない、この子は持ってる」

「持ってる……?」


「君には今、二つの選択肢がある。一つは鳥籠が開け放たれたにも関わらず、そこから羽ばたかない選択。もう一つは、鳥籠から飛び出して自由になる選択だ」


 自由になる、選択?


「取り敢えず着替えておいで。そのままでは窮屈だろう?」


 何が何やらわからないが、カバンのまま荷物を置いていた共同部屋に戻ると、着物を脱いでここに来たときに着ていた服に着替える。


 そしてふと、錫杖を見て手を止めた。

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