第3話
翌日。
雲林院家に着くと、まずはその大きさに驚いた。日本風の家屋に枯山水の庭園が広がり、縁側が日光を浴びてつややかに光っている。
「さあ、降りなさい」
今流行の色の振り袖を着た鈴華が、父に手を取られて車から降りる。使用人総出でお出迎えのようで、男女用の違いはあれど、皆同じ着物を着ている。
「ようこそいらっしゃいました」
なんとまあ揃っている立礼と挨拶だろう。そんなことを思っていると、真ん中に立つ、統括役であろう使用人が両親に向かってもう一度頭を下げて言った。
「この場に居るのは、本日から身の回りのことを致します使用人でございます。どうぞよろしくお願い致します」
「ああ、よろしく頼むよ」
それほどの地位だったのか疑いたくはなるものの、父が流れるように返す。するとその使用人が尋ねた。
「ところで以前より雇っている使用人がいらっしゃるとのことですが」
(雇っていた使用人……?)
三人の視線が集まる。
ああ、私のことか。
「私です。一日でもはやく仕事に慣れるように頑張ります。よろしくお願い致します」
うまくやらなければ。辻褄を合わせるのは私の仕事。
「ず、隨分とお若い方で……」
「こう見えて家事も雑用も完璧にこなしていたので、是非使ってやってください」
そうして私の使用人生活が始まった。
かのように思われた。
夜。
宴会が始まったことで、私の初めての仕事がやってきた。先程まで料理の出し方や飲み物の注ぎ方に至るまで徹底的にしごかれたので、思いの外なんとかなりそうだ。
「新入りちゃ〜ん。お酒、ちょうだいよ」
雲林院家の
「すぐお注ぎします」
案外てきぱきと動けているので、初日にしては良いほうだろう。焼酎の瓶を持ち上げながらそんなことを思った、次の瞬間。
ドガァン!!
「うおっ、なんだ!?」
突然鳴った大きな音の後、障子をこじ開けるようにして黒いドロドロとしたものが顔をのぞかせた。
「きゃぁああ〜っ!!」
鈴華がつんざくような悲鳴をあげる。そんな怖がってて浄化師としてやっていけるのかなと呑気に考えていると、それは私に向かって手を伸ばしてきた。
「鈴華っ! 逃げろ!」
悠造様が叫ぶと、その息子である
しかし誰ひとりとして、私を気に留めてくれる人はいない。新入りなんぞ一人くらい消えても問題はないのだろう。
その間にも私の首に向かって鋭い指先が近づいてくる。
不意に、安心した。
これでおじいちゃんやおばあちゃんのところに行ける。
短い人生だったけど、あの人の言う事が正しいのなら、私は最後に認めてもらえたということだから。
(ありがとう)
「
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