ミサンガ

 土曜日の午後、家族が全員出払っており、室内は静まりかえっている。

 先程家事を終え、私はコーヒーを飲みながらのんびりと過ごしていた。


 コーヒーを飲み終え暇をもて余していた私は、読書でもしようとリビングを後にし、本棚のある寝室へと向かう。

 そして寝室に到着した私は、棚にところ狭しと並べられている本を眺めてみるのだが、何故か読みたいと思える本が見当たらない。

 読書はやめておくか。そう思い本棚から離れようとしたとき、ふと一冊の本が目にとまる。

 それは“初心者でも簡単! 楽しいミサンガ作り”というタイトルの本で、随分昔に書店で目に付いて購入したものの、一度もきちんと目を通すことはなく長い間本棚に眠っていたものだった。


 私はそれを手に取る。すると、表紙にはカラフルで可愛らしい各々それぞれデザインの異なる三種類のミサンガが、これまた可愛らしいイラストと共に紹介されている。

 そして一ページ目を開いてみた。すると、そこにはミサンガ作りに使用する材料が紹介されていた。

 なるほど、刺繍糸を使用するのか。それなら確か裁縫箱の中にあった筈だ。

 そう思った私は、本を右手に持ち同じ寝室内にあるクローゼットを開き、裁縫箱を取り出す。それを左手に持ち、寝室を後にしリビングへと戻る。

 

 こうして私はミサンガ作りにチャレンジしてみることにしたのだ。

 リビングへと戻った私は、手に持ったものをテーブルの上に置き、裁縫箱の中から刺繍糸と糸切り鋏を取り出す。


 そして本に書かれた通りに色の異なる三種類の糸を同じ長さに切り揃え、それを束ねてから半分に折り畳み、折り目の先端から三センチ程のところを結ぶ。

 できるだけ簡単に作れるものにしようと目次を開く。すると、三つ編みと斜め編みの組み合わせが比較的難易度が低いようだ。

 私はそれを作ることに決め、早速お手本を見ながら編みはじめた。


 ────そして開始から約一時間後、それらしいミサンガがようやく完成した。

 試しに手首に巻いてみようとしたとき、ふと・・私はあることに気付いてしまった。

 それは、手首に巻くにはあまりにも長すぎたのだ。

 

 暫くすると、友達とお出かけしていた母が帰宅。


「ただいま、すごい混んでたわ」


 母は玄関からそう言って、リビングへと入ってきた。

 

「お帰りなさい」

「あら、何してたの?」


 すると母はテーブルの上を指差し私に尋ねる。

 私は先程作ったミサンガを取り出し、それを自分の手首に掛けて見せた。


「これ作ってたの。ミサンガなんだけど長すぎちゃった」

「それはミサンガっていうよりはチョーカーね」


 それを見た母はそう言って大爆笑。

 結局その後ミサンガは、首輪として愛犬の誕生日にプレゼントすることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る