シャンプーの香り
ある秋の夜長。夕飯が終わり私は母とテレビで天気予報を見ながらくつろいでいた。
「明日も雨だって」
「梅雨でもないのに最近ずっと続いてるわね」
「そうだ、お茶でも飲みながらこの前お中元でいただいたスイーツ食べてみない?」
「いいわね!」
母とそんな会話をした後、私はお茶とスイーツを取りにキッチンへと向かう。
私は食器棚の中からティーカップとソーサーを三組、それに紅茶のティーバッグを添えたティーポットを取り出し、トレーに並べる。
そして母の知人からいただいたお中元を取り出し、箱を開封すると、中身はやや小ぶりなバウムクーヘンだった。三種類の異なるフレーバーの個別包装されたものが縦に三列それぞれ五個ずつ並んでいる。
私はそれら三個を一種類ずつ取り出し、ソーサーに並べた。そして先程のティーポットに沸騰した熱湯を注ぎ、トレーを手にキッチンを後にした。
「お待たせ。ついでだから父さんの分も用意しちゃった」
「ありがとう」
私の呼び掛けに母が応える。
そう、先程三人分用意した
私はトレーをダイニングテーブルに置いた。
「美味しそうなバウムクーヘンね」
「母さんはどれにする?」
「じゃあ私は苺にしようかしら」
「それじゃあ私は抹茶」
「残りのプレーンは父さんね」
すると、どこからか匂いを嗅ぎつけた愛犬がやって来て、つぶらな瞳で私たちを見上げる。
「ルビーはこんなの食べちゃ駄目よ」
母が愛犬にそう言って二人で笑い合う。
暫くすると、入浴を終えた父がリビングへと入って来た。
「さっぱりした…… おっ、
そう言って父はバウムクーヘンを指差した後、ダイニングテーブルへと近寄る。
「これはお中元でいただいたのよ。父さんもどうぞ」
「そうか! それは嬉しいよ母さん」
父がダイニングテーブルの両脇の椅子に座っている私たちの間に腰掛けたとき、ふと爽やかな香りが漂う。
しかし、それは私たちが普段使用しているシャンプーやボディソープとは異なるものだった。
確かによく知っている香りではあるのだが、思い出せない。
「これは多分高級品だろうなぁ。紅茶ともよく合っていて美味いよ」
そして私たち三人はバウムクーヘンを味わった。
暫くすると、父の携帯電話が鳴る。
「ごめん、電話だからちょっと行って来る」
そう言って父は席を外し、部屋を後にした。
私は母に先程から気になっていたことを尋ねる。
「ねえ母さん、今日父さんが使ったシャンプーって、いつものじゃないわよね?」
「そうそう、父さんったらルビーのシャンプーなんか使っちゃって…… 私も気付いてたんだけど」
母は笑いを堪えながら呟く。
その香りは、愛犬に使用しているペット用シャンプーのものだった。道理で私が知っているわけだ。
「本人には黙っていてあげましょう」
「そうね」
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