実録! 日常のおもしろエピソード集

花乃 牡丹

お品書き

 ある日の正午、久しぶりに会った友人とのお出かけ中。私は空腹を堪えながら彼女と共に繁華街を歩いていた。

 その日は春で気候が良く、さらには日曜日ともあって辺りは非常に混雑している。


「さっきの雑貨屋さん面白いグッズがいっぱいあって楽しかったわね!」

「そうそう、特に自宅でプラネタリウムを楽しめるライトなんて素敵だったわ」

「ところで話は変わるけど、ランチどうする?」

「それならこの近くに美味しいお店あるわよ」


 そして私は近所にあるという日本料理店へと彼女に案内してもらった。

 どうやらそこは魚料理が美味しい店らしい。


 繁華街から少し裏手に入り、歩くこと三分程、ようやく店にたどり着いた。

 そこはとても高級感漂う佇まいだ。

 倹約家である彼女らしくないな。そう思いながら、取り敢えず入店してみることにした。


 少し緊張しながら暖簾のれんをくぐると、店内はやはり高級感が漂い、落ち着いた雰囲気だった。


「いらっしゃいませ、二名様ですね。こちらへどうぞ」


 暫くすると奥から店員が現れ、私たちはテーブル席へと案内される。

 席につくと、彼女はテーブルの脇に置かれたメニューを手に取り開いた。そして私にもそれを見せながら尋ねる。


「どれも美味しそうね。何にする?」

「私はまだ考え中」


 私はやはり緊張気味に答えた。

 メニューには右端に縦書きの大きな文字で“お品書き”と記され、それに続けて様々な料理の名前と価格がやはり縦書きで記されている。

 暫くすると、店員が水の入ったコップをトレーに乗せ運んで来た。そしてそれを私たちの手前に置く。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


 店員は私たちに尋ねた。

 すると友人が応える。


「私は焼き魚定食にします」

「そ、それじゃあ私はお品書きで」


 私は緊張のあまり、そんなことを口走ってしまったのだ。

 それはどう考えても料理の名前ではない。

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