第16話 脱出!
エレベーターから上がって来た海賊は6人。全員光線銃で武装し、うちふたりは大きなずた袋を背負っている。恐らく中型船からの略奪品が詰まっているのだろう。
「※※※※※※※!」
彩晴達を見て海賊のひとりが声を上げた。立派な顎髭を生やした頬のこけた男で、中世の貴族のような身なりをし、頭には羽飾りのついたやたら鍔の広い帽子をかぶっている。
「あれがボスかな?」
『それっぽいですねー』
男は気取った仕草で光線銃を構え発砲するが、対レーザーコーティングされたシェルパンツァーには通用せず、レーザーは装甲表面で虚しく拡散する。
「※※※※※※!」
シェルパンツァーに向けて光線銃を乱射しはじめる海賊達だが、シェルパンツァーはそれをものともせず、アームに仕込まれたプラズマインパクトガンで、先頭にいた海賊ボス(仮)を吹っ飛ばした。
『※※!」
「※※※※※!」
プラズマインパクトガンは非殺傷モードに設定されている。よほど心臓が弱くない限り死んではいないはずだ。
「武器を捨てて、両手を上げて膝を付け。投降するなら命まではとらない」
一応投降を呼びかけてみる彩晴。当然返答として帰って来たのはレーザーだ。
「だよなぁ……」
残された海賊達はパイプやエレベーターの陰に隠れて、滅茶苦茶に光線銃を撃ってくる。
海賊が撃ったレーザーが彩晴の背後の壁を焦がし火花が散る。それも一発や二発ではない。床に、壁に、海賊達は船が傷つくのを気にせず撃ちまくる。
「この距離でなんで外せるんだよ!? あいつら射撃下手糞すぎだろう?」
『レーザーの威力はそこそこ高いだけにたち悪いですね』
物陰に隠れて撃ってるせいもあるだろうが、海賊達の射撃の腕はとても高いとは言えない。20メートルもない通路で人より大きいシェルパンツァーに当てれないとは、腕の問題でなく別の思惑があるのではと疑ってしまう。
「誘爆狙ってるとか?」
『そんなことしたら自分達も死にますよ?』
「だよなぁ……っていうか、なんで俺達が連中の心配をしなきゃいけないんだ?」
彼等の衣服は宇宙に出られるものとは思えないファンタジー衣装である。真空どころか、爆発に耐えられるとも思えない。
自分達の船の中だというのに気にせず撃ってくる海賊達に対して、こっちは船へのダメージを気にして撃つことが出来ない。なんとも変な話である。
『今コマンドドックが向かっていますから、それまでの辛抱です』
「その前に、これで敵の銃を潰せるか試してみる」
彩晴はジャケットのポケットからEMPグレネードを取り出すと、安全ピンを抜く。
宇宙軍が実弾兵器に回帰した最大の要因。それは、光線銃は精密機器な上に強力なバッテリーを備えている為、EMP兵器に弱いという致命的な弱点があったからだ。
電磁パルスへの対策技術が発達したと言っても、やはり常時携行できるハンドガンサイズでは不安があり、現在、光線銃は十分なEMP対策が施された大型の車載兵器や、ドローンくらいにしか採用されていない。
地球製のEMPグレネードがこの世界の武器にも通用するかはわからない。うまくいけばめっけもん。彩晴としてはそれくらいの気持ちだ。
『あ!? ちょっと待ってください!』
「え?」
EMPグレネードを投げようとしたのに気が付いたハツが制止しようとしたが、その時既にEMPグレネードは彩晴の手から放れていた。それは放物線を描いて、海賊達が潜む物陰のやや手前に落下する。
地球製EMPグレネードはこの世界でも大いにその威力を発揮した。強力な電磁パルスが、海賊達の持つ光線銃の電子回路とバッテリーを破壊する。火花を散らしながら光線銃が爆発したことで、悲鳴を上げる海賊達。
だが、EMPグレネードが影響を及ぼしたのは光線銃だけにとどまらなかった。通路のいたるところから火花が上がったのだ。
『あやっ!? 大丈夫!?』
「ああ……すまん。やらかした」
『もう! この世界のEMP対策技術が未知数であること以前に、違法な改造船に対してEMP兵器の使用は危険だから控えるようにって、マニュアルに書いてありませんでしたか?』
「すまん。見てなかった……うおっ!?」
船体が揺れて重力が消えた。
天井の照明が落ち、非常灯に切り替わる。朱色の僅かな灯りが通路を照らす。この辺りは地球の船とよく似ているようだ。
「ライフラインが死んだか。やばいな」
『主機が停止したようですね』
EMPグレネードは、強力な電磁パルスで電子機器を破壊する非殺傷兵器だが、時として通常のグレネード以上の破壊力を発揮する。今回がまさにそれだった。本来あるべきカバーや壁面パネルが外されていて、配線がむき出しになっていたところに電磁パルスを受けたことで、船内の電気系統に深刻な損傷を与えてしまったのである。
完全に彩晴のミスだ。
残っていた海賊達は、気を失っている海賊ボス(仮)と、戦果の入ったずた袋を放り出して逃げていく。だが、逃げた先で悲鳴が起こる。どうやらコマンドドッグと鉢合わせたらしい。
『はあっ!? なんでそんなアホなことになってるんですか!?』
海賊船をモニタリングしていたハツは、サーモセンサーを見て驚きの声を上げた。
「どうした!?」
『冷却器が急停止したことで、余熱で主機である核融合炉内部が融解しています! このままだと爆発の恐れがあります!』
「そんなアホな!?」
『設計以上の出力を出すために、かかる負担を冷却器で強引に抑えていたんだと思います。ですが主機が急停止したことで余熱を逃すことが出来なくなって……』
「メルトダウンを起こしていると」
『まったく! 何てことしてくれたんですか! 後でしっかり顛末書出してくださいね!』
「ごめん」
彩晴は頭を抱えた。たった一発のEMPグレネードが、まさかここまでの影響を与えるとは!
『あや! 早く脱出して!』
「ああ! 撤収する! ハツはなんとか海賊船を中型船から引き離してくれ。すずはいざという時、外郭を破壊できるように待機していてくれ」
『アイサー!』
『了解!』
コードネームを忘れていたのはご愛敬だ。もうキャプテン・ソーマごっこをしている余裕はない。
シェルパンツァーに掴まった彩晴は、来た道を戻ろうとする。間に合いそうになければ、涼穂に外から外郭を破壊してもらう算段だ。ヒエンのフェイザーバルカン砲は駆逐艦くらいの装甲なら容易にハチの巣にできる威力がある。海賊船のダメージを無視していいなら、脱出のための穴をあけるくらいわけはない。
だがその時、背後から声が聞こえた気がして、彩晴はその場を振り返った。
「……なんか声がしたような?」
『海賊だったら見捨ててください』
「いや……子供のような」
海賊達いた通路の奥にライトを向けると、何かが蠢きながらこちらに流れてくる。
「な、なんだ!?」
よく見るとそれは海賊が背負っていたずた袋だ。そして、確かに子供の声がする。
『対人センサーに感! 中に人が入ってます! 身体的特徴から恐らく女性! 身長約150センチメートル、体重44キログラム!』
「そこまではいいから!」
ずた袋の中の人の身長と体重まで言ってくるハツにツッコミを入れて、彩晴は流れてきた袋をつかまえる。間違いない。中で誰かが暴れている。彩晴は急いで口を塞ぐ紐をナイフで切断する。
「※※※! ※※※※※※!?」
ずた袋の口が開いた途端、鮮やかな金髪の女の子が飛び出して来た。
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