第23話 『愚痴垢』/「誕生日」始まり指定

誕生日を迎えて「レベルアップした!」とはしゃぐ人が苦手。

同じく年齢を「Lv」表記する人も苦手。

例を挙げると、SNSで「30歳・男性」と示すのに「Lv30♂」みたいなやつ。


僕だってゲーマーだから、「Lv.」が「level」の略で、ロールプレイングゲームにおいてのキャラクターやユニットの強さの段階を表す数値の「レベル」を比喩的に使ってるのは知ってるよ。


時々「LV」とか書いてるにわかもいて、ルイ・ヴィトンかよ!ってツッコミたくなる。


「93line」とか「’93」って書き方がおしゃれなの?

普通に「1993年生まれ」って書けばよくね?

しかも20代女子ならまだしも、30歳の男がやってるのを見つけちまって…キモ!


「おいおいおい。お前のアカウント、愚痴が止まんねぇなぁ」

「自由に呟いて、何が悪いの」

「悪いとは言ってない。ただ、なんで誕生日なのにそんなに荒れてんだよ?」

「それは……」

「ほい、ケーキ。コンビニので悪いけどな」

 

 今日は、僕の30歳の誕生日当日。

だけど、SNSにアップする写真もないし、祝ってくれる人もいない。

……はずだったけど、1人きりでサービス残業中に同期社員が差し入れを持って来てくれた。


 僕と全く同じ生年月日なのに、恋人や友人たちに囲まれて、盛大に誕生日を祝ってもらっている「Lv30♂」の「レベルアップした!」とはしゃぐ投稿が目に入ってしまったんだ。

そいつと比べて、自分が惨めに思えて落ち込んで、八つ当たり。

誰かと自分を比べて幸福度を測るなんてナンセンスだ、とわかっているのに。


「なんで僕の誕生日を知ってるの?」

「お前のアカウント覗いたら、風船飛んだから」

「あ、あれは……」

「プロフ見たし。お前、愚痴垢のわりに個人情報ばらしすぎじゃねぇ?」

「でも、僕の愚痴垢の存在を知ってるの、偶然見られて知られた君だけだし」

「じゃあ、俺が気づいてよかったよ。一緒にケーキ食おう。どっちがいい?」


 涙でにじんだ視界でも、いちごのショートケーキとモンブランだということくらいはわかった。

食べ終わったら、愚痴垢の呪いの投稿を消去しよう。

アカウントごと消すのは……、まだ保留。

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