第22話 『幸せの赤い鳥』/「紅葉鳥」始まり指定

「紅葉鳥を探してるんだ」

「鹿狩りするの?」

「え?」

「狩猟免許持ってたっけ?」

「持ってない。というか、なんで鹿?」

「紅葉鳥って、鹿の異名だろ?」

「そうなの?」

「俳句の季語でも使われてるぞ。鹿肉は、隠語では『もみじ』だし」

「鹿じゃなく、鳥を探してるんだ」

「紅葉鳥という鳥は、聞いたことがないな」

「幸せの赤い鳥さ」

「それを言うのなら、青い鳥だろ」

 ジビエ料理に目がない友人が、呆れ顔で去っていった。

紅葉鳥が鹿だって? そんなわけないだろう。

でも、辞書で調べたら、なるほど……載っている。

一つ知識が増えたことには、感謝しよう。

でも、俺が探している紅葉鳥は、鳥なんだ。


「紅葉鳥を探してるんだ」

「『もみじどり』ってなんだよ。コウヨウチョウと読むんだろ?」

「え?」

「スズメ目ハタオリドリ科に分類される鳥類の一種、コウヨウチョウなら知ってるよ」

「もしかしたら……その鳥のことなのかな?」

「繁殖期になると、オスは赤みを帯びたオレンジ色の羽が生え、色鮮やかな姿になるよ」

「繁殖期が過ぎると?」

「元の白っぽい色に戻るよ。くちばしは赤いけど、脚はピンク色で顔は黒い」

「違う、違う。全身真っ赤な鳥さ」

「世界で最も生息数の多い鳥類だといわれてるんだけど」

「じゃ、なおさら違う。俺が探してるのは、めったに遭えない幸せの赤い鳥さ」

「それを言うのなら、青い鳥だろ」

 バードウォッチングが趣味の友人が、呆れ顔で去っていった。

紅葉鳥ではなく、コウヨウチョウだって? そんなわけないだろう。

でも、図鑑を調べたら、なるほど……載っている。

一つ知識が増えたことには、感謝しよう。

でも、俺が探している紅葉鳥は、こんな鳥じゃないんだ。


「紅葉鳥を探してるんだ」

「モミジか」

「知ってるのか?」

「知ってるもなにも、毎日大量に仕入れてるぞ」

「え……大量に?」

「あぁ、商売道具だからな」

「紅葉鳥で商売してるのか!? ……罰当たりめ」

「お前もうまいって言いながら食ってるだろ、いつも」

「え?」

「うちのスープには、鶏の足の『モミジ』が欠かせないからな」

「違う、違う。俺が探してるのは、ニワトリじゃない」

「『モミジ、とり』の聞き間違いじゃないのか?」

「ニワトリみたいにトサカだけじゃなく、全身真っ赤なはず」

「そうならやっぱり、紅葉鳥は聞いたことがないな」

「幸せの赤い鳥さ」

「それを言うのなら、青い鳥だろ」

 ラーメン屋を営む友人が、呆れ顔で去っていった。

紅葉鳥は、聞き間違いだって? そんなわけないだろう。

でも、ネットで調べたら、なるほど……載っている。

ラーメン屋にとって「モミジ」といえば、紅葉のような形をしているのが由来の鶏の足が真っ先に頭に浮かぶんだな。

一つ知識が増えたことには、感謝しよう。

でも、俺が探している紅葉鳥は、ニワトリじゃないんだ。


 はて、俺の求める幸せの赤い鳥は、どこにいるのだろう……。

………………………………。

俺はいつ、紅葉鳥の存在を知った?

俺はいつから、紅葉鳥が幸せの赤い鳥だと思い込んだんだっけ?

俺は実際に友人に説明しようとしても、紅葉鳥の正解を知らない。

……俺の紅葉鳥って、何だ?


 今日三つの新しい知識を得て、一つのロマンを失った……。

呆れている友人達の顔が浮かぶ。

呆れてはいたけど、見捨てられては……ないよな?

彼らはいつも、なんだかんだ俺の話を聞いてくれる。

もしかしたら、俺が探していた紅葉鳥よりも希少価値が高いのでは?


「もしもし、これから会えるかな?」

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