第14話 『文化祭カプリッチオ』/「文化祭」始まり指定

 文化祭の一般公開が再開されると聞いて、真っ先に手を挙げた。

「絶対行きたい!」

 母もブンブンと首を縦に振った。

「ぜーーったいに来ないで!!!」

 まぁ、お年頃だから仕方ない。

「わかったよ……」

 拗ねたふりをしたら、気にしてこちらをチラチラうかがっている。


 運動部だったら、大会の応援などで活躍する姿を見れるのに……なんせ弟は化学部。

文化部の中でも、吹奏楽部や軽音楽部なら、外部のステージで演奏披露を拝める機会もあるだろうけど。

だから、文化祭を逃す手はない。


 スパイさながら母とアイコンタクトをとり、秘密裏に決行が確約された。

七歳離れているからか、弟に対しては、姉というより母親目線なところがある。

弟が幼いうちから共働き家庭だったので、実際かなり世話を焼いてきた方だと思う。




「ふむふむ。なるほどねぇー」 

 化学部の展示を見て感心したふりをしたけど、実際は全然理解できていなかった。

ただ、県内トップの進学校に通う弟の頭の良さを、なおさら実感するには十分だった。


「メインディッシュは、ここからだからね!」

 母もはりきって頷いた。

弟のクラスは、流行りのコンセプトカフェというのか、メイド喫茶ならぬ執事カフェをやると聞いていた。

 当日は来るなと釘を刺すわりには、ちゃっかりと衣装を縫うのを手伝わされたから、弟が裏方ではなく、給仕役だということも判明している。


「おかえりなさいませ、おじょ……」

 姉と母の来店に、絶句する弟。

「ほらほら、お嬢様方でしょ」

 ニマニマと接客を促した。

「……お嬢様方、こちらへどうぞ」

 しぶしぶ席へ案内される。


 着席して周りを見回す必要もないくらい、この席が注目を浴びているのを感じた。

私は内心ほくそ笑む。

弟のポテンシャルの高さを知っているから。

「真面目でがり勉の地味メガネ君」と思っていたのに、「えぇ……意外にかっこよくない!?」ってときめいてるんでしょうよ、女子達!

えぇ、そうですとも。ギャップ萌えしますよねぇ。はいはい、わかりますよ。

こんなかっこいい男の子を、この私が育てたんです!

隣にいるおばさん……いや、お母様ではありませんよ。姉の私が!

誇らしい気持ちで胸を張った。


 姉弟とも、忙しい母にも、もちろん父にもきちんと愛情を持って育ててもらった自覚はある。

だけど、いじめっ子に泣かされて帰ってきた弟を抱きしめてあげたのは、私だった。

模試の結果が悪くて焦る弟に夜食でエールを送ったのも、私だった。

オムツを替えてあげた、お風呂に一緒に入ったとかを言い出すと……そして、ベタベタすると嫌われるから、スキンシップはこの頃すっかりご無沙汰だけどね。

そう、私は弟を正々堂々溺愛しているんです!!!


「お姉様ですか?」

 弟のクラスメイト達が次々に声をかけてきた。

あっという間に私は男子達だけではなく、女子達にも囲まれた。

な、何事!?


「だから来るなって言ったのに……」

 頭を抱える弟。

「かわいい!」や「どこの美容院通ってるんですか?」の黄色い声。

「連絡先教えてください!」や「彼氏いるんですか?」の野太い声に揉まれて、タジタジの私。

 弟が私の手をひいて、廊下へ引っ張り出した。

「これだからさ……無自覚モテ女は困るよ」

「は?」

「もう十分大人なのに、自分が人を惹きつける美人な自覚はないわけ!?」

「へ?」

「姉貴が来たら、みんなが紹介しろってうるさいと予想できたから、来てほしくなかったんだよ。案の定だったわ」

 私もブラコンの自覚ありだけど、弟も立派なシスコンのようだ。


 その頃、教室に内装を施した執事カフェの店内では……若者達に囲まれて、ご満悦の母の姿が。

「うちの子達、かわいいでしょ。二人ともやさしくていい子なのよ。みんな仲良くしてあげてね」

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