第12話 『発光と発酵』/「ただ歩く」始まり
ただ歩くだけで、黄色い声援が飛ぶ。
あんな猫背で、ヘコヘコ歩いているだけなのに。
にへらにへら笑って、手を振って……いい気なもんだわ。
こちとら、厳しいコーチのもとでウォーキングレッスンという名の特訓を受けて、必死のダイエットを重ねて、それでやっとモブ出演してんのよ!
……怒りをぶつけるのはお門違いだってわかってる。
3回目のガールズイベントでも、ポスターに「その他大勢」の出演者の一人として小さく名前が載っただけ。当たり前か。人気雑誌の専属に選ばれたことは飛び上がるほど嬉しかったけど、単独で表紙を任せてもらえたこともない、不人気メンバーだから。
コレクションだったら洋服を魅せることがメインだけど、この手のイベントは人気順。モデルよりも有名タレントが優位に立つことも多々ある。
トップバッターに起用されたり、山場となる大事な場面でスポットライトを浴びたり。
きっと私には、一生縁がなさそうなポジション。
だいたい、あの子の肩書きって何?
歌は悲惨だし、ダンスのセンスもない。この間演技レッスンでたまたま一緒になったけど、ひどい棒読みだった。
それでも業界から必要とされているんだから、まぁタレントってことになるんだろう。タレントかぁ……才能ね。歌が超絶に上手い歌手もいるし、プロダンサーはダンスを極めている。演技派が重宝されるのも納得だけど……何?
あぁ、愛される才能か。
この世界は、光の世界。輝きが全て。
現にどんなに姿勢が悪くても、ウォーキングの基礎もできていなくて「ただ歩く」だけでも……あの子は、自ら発光している。
ルックス? いや、そんな単純なものじゃない。確かにあの子はものすごく可愛い顔をしているけど。整った顔立ち順に出演者の中で順位をつけたとしたら、一番手ではない。スタイルに関してだけいえば、私の方がずっといい。
理屈じゃないんだ。
努力では手に入らないものに落胆しながら、私は自分の中にある最善の笑顔で手を振る。こんな私でも憧れているとファンレターをくれた、女の子のため。
今日会場に来ているかもわからないし、とっくに人気メンバーのファンに鞍替えしたかもしれない。だけど……
矛盾しているかもしれないけど、「努力で手に入るものもある」って証明して見せる!
……あぁ、こんな誰にも伝えるつもりのない宣戦布告さえ、平凡な考え方でありきたりな言葉しか出てこない。
「親近感がある等身大のモデル」路線で、平凡を武器にするか。
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