第11話 『文芸親子』/「文芸部」始まり

「文芸部だったんだぞ、これでも。見せてみろ」

 父が、久しぶりに声をかけてきた。

「若い頃は小説家志望の文学青年だったのよ」

 どこかうっとりとした表情で、母が言葉をつなげる。


 夏期講習の小論文講座の受講費を払ってもらっている分、断りづらい。

小説と論文は違う。ましてや受験対策用の小論文だし、「ほっといてほしい」と内心辟易している。

どうせ薀蓄を垂れられたり、見当違いなアドバイスをされて、余計にストレスがたまるだけだ。

ただでさえ、「高校三年生」ではなく、「受験生」の夏休み。

常に心に大きな負荷がかかっている。

進学を決めたのは自分自身だから、来年こそ夏を満喫すればいい。

キラキラな青春は、スマホの中にしか存在しないものと割り切っている。


「おぉ、なかなかいい文章書くじゃないか」

 え……予想外にいい反応。

母は自分が褒められたように、にんまりと頷いている。


 文芸学科に進みたいと考えたのは、文章を書くのが好きだったから。

口下手な私は、文字を綴る方が自分の気持ちを伝えやすかった。

文章なら、どこまでも自由に羽ばたける気がした。

 

 その芽を育んでくれたのは……、父だった。

小学生の時、父が夏休みの宿題の読書感想文の作成につきあってくれて、原稿用紙三枚分を書き上げると、ものすごく褒めてくれた。

それが、私の原点。


 もっと就職に有利な学部を勧められると思ったのに、全く反対されなかった。

似たもの親子だからなんだね。……わかっていたけど。


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