第6話 『蛇とマウス』/「食べる夜」始まり指定

食べる夜

今宵、私は捕食する動物になる

丸呑みしてから、ゆっくりゆっくり消化していく蛇のように

私の中でドロドロに溶かしてみせましょう


目の前には、縮こまって動けなくなったマウスのような貴方

でも、その身震いが恐怖心からだけじゃないことはお見通しよ

ゾクゾクしているんでしょ?


甘美な夜への招待状

受け取ったらもう引き返せない

火照る身体とは裏腹に

まぶたがない蛇のように、冷めた目でじっと見つめる

「さぁ、脱ぎなさい」


 ページを捲る音がして、うたた寝から目を覚ました。

寝起きのボーッとした頭では、愛しい貴方が何を手にしているかすぐに理解できなかった。

いつもはサイドテーブルの引き出しへ入れてあるのに、心地よい陽気と満腹に誘われ寝落ちして、開いたままだった。

白いノートを汚したインクの文字たちを思い出す。


「あっ……それ……」

 恥ずかしさが体全体を駆け巡り、顔から火が出る感覚に陥った。

一番見られてはいけない人に見られてしまった。

合鍵を渡しておいたことを初めて後悔した。

休日出勤の後真っ直ぐ自宅に帰らずに、うちに寄ってくれたなんて……

普段なら飛び上がるほど喜ぶのに。


「君がこんな願望を持っているとは知らなかったよ」

 貴方は唇の右端だけ上げて笑う。

刺すような視線で私の顔から身体へと見下ろす瞳は、蛇のように冷やかで。

私はマウスのように縮こまる。

ネクタイを緩める筋張った手を見て、「あぁ、たまらなく好きだ」と思う。


「さぁ、脱ぎなさい」

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