第5話 『青春を詠む』/「食べる夜」始まり指定

食べる夜/食べない朝と/食べる昼


 あー、駄作中の駄作。というか、それ以前。

季語がないから、川柳か。

川柳といえば、あのお茶のラベルを思い出す。

もっとウィットに富むっていうの? 洒落がきいてる。

サラリーマン川柳なんてのも、ユーモアと悲哀に満ちていて笑えるもんな。

サラリーマンか……俺、社会人になれんのかな。

毎日スーツ着て満員電車に揺られて、頭ペコペコ下げて?

……知らんけど。地獄だろ。

あー、大人になんかなりたくねぇー。

でも、今現在もクソだろ。

高校生になったら彼女の一人や二人、できるもんじゃねぇの!?

あ、二人はいらない。欲張りすぎた。


 宿題として課された俳句制作は、迷走し始めた。

というか、いつだって俺はまっすぐ歩けない。

目的地に向かってまっしぐらに進んだことなんてあったっけ?

小さい頃から「フラフラ歩くんじゃない」って叱られていたよな。

部活に精を出すでもなく、バイトに明け暮れるわけでもなく、のらりくらり。


青春が/アイスと共に/溶けていく


 お、上手い? ……上手かないか。

え、調べたら、アイスって夏の季語じゃねぇじゃん!

「アイスクリーム」か「アイスキャンディー」ならOKなのか。

これで七文字消費。

「氷菓」や「かき氷」にすればいいのか……でも、ニュアンスが違うんだよな。

「アイス」は「アイス」なんだよ!

あ、でも、こっちのサイトでは「アイス」も季語でOKになってるな。


 嫌々な俳句制作だったのに、いつのまにか熱くなっていた。

自分の気持ちを言葉で表すのも、悪くないかもしれない。


夏祭り/浴衣の君と/手を繋ぐ


 くー、たまんないね。叶ったら最高だろうな。

……何もしないで時間を溶かしてしまうより、当たって砕けてみる方が青春かもしれないな。

もしフラれたら、友達とフラフラ露店を冷やかして周ればいいんだし。


夏祭り/花火のように/散った恋


 嫌な句が頭をよぎって一瞬躊躇したけど、目的地に向かってまっしぐらだ!

俺はスマホを手にした……。

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