第21話

「だとしても、なにが踏み荒らして行ったのかわからないの。もしも山からイノシシとかが下りてきていたら危ないから生徒だけでの対応は難しいし」



飯田さんが悩んでいる理由はそこにもあるようだ。



「じゃあ、俺達はこの足跡の主がなんなのか探せばいいってことか?」



カツユキの言葉に飯田さんは頷いた。



「できれば、そうしてほしいと思ってお願いしにきたの」



でもそれは難しいことだった。



この付近の山にはイノシシもシカもサルもいると言われている。



足跡だけで犯人探しは至難の技に誓い。



ジュンイチもカツユキも黙り込んでしまっている中、テツヤひとりだけが動いた。



ポケットからスマホを取り出して証拠の足跡を撮影しはじめたのだ。



「この写真を元に検索すればすぐに犯人がわかるはずだ」



それから先は手早かった。



スマホを使い慣れているテツヤはあっという間に検索して、それが野うさぎの足跡であると判断したのだ。



「野うさぎか、それなら大きな被害はなさそう」



飯田さんはホッと安堵のため息を吐き出して言った。



うさぎが犯人だとすればイノシシや他の動物のように人間に危害を加えてくる心配はほとんどないということだ。



「でも、花壇がまた荒らされると困るんじゃない?」



ジュンイチが気を利かして言う。



「うん……。でもそれはもうしょうがないよ。動物よけのネットを張ったりとかすればいいと思う」



その言葉に3人は顔を見合わせた。



確かにネットなどを張ることで他の動物被害からも花壇を守ることができる。



だけど、それじゃ解決というわけにはいかない。



犯人であるうさぎだって、まだこの付近にいるのかもしれないし。



「ちょっと待ってて、図書館で調べ物をしてくるから」



ジュンイチは女子生徒2人へ向けてそう声をかけ、3人で大急ぎで図書室へ向かったのだった。


☆☆☆


それから3人は野うさぎの習性について調べ始めた。



学校に出てきた野うさぎは近くの山に暮らしているうさぎで間違いないと思う。



ではどうしてここまで下りてきてしまったんだろうか?



「そうか、山に餌がないと出てくるんだな」



「人里に降りてきても、隠れているみたいだ」



「倉庫の裏とか、通気孔から床下に潜り込んでいるかもしれないな」



3人でそれぞれ調べて可能性を書き出していく。



こうして見ると野生のうさぎでも学校に侵入してくることは可能みたいだ。



「これから野うさぎを見つけ出して山にかえすから」



校舎裏へ戻ってきたとき、3人は用務員の先生から借りた大きめの虫取り網を持っていた。



もともと校舎に侵入した動物を捕獲するために用意されていたもののようで、網はしっかりとしている。



「捕まえられるの!?」



驚いている飯田さんと西川さんに笑顔を向ける。



うさぎが隠れていそうな場所はすでに検討をつけている。



まだ逃げていないとすればきっと見つかるはずだった。



「こっちにいたぞ!」



探し始めてものの15分ほどで、倉庫裏を探していたカツユキから声がかかった。



慌てて網を構えて近づいていくと灰色のうさぎが飛び出してきた。



「捕まえろ!」



3人でわっと飛びかかって網をかぶせる。



ウサギはじたばたともがきながらもちゃんと網の中に入っていた。



「すごいよ3人共、本当にウサギを捕まえるなんて!」



校舎裏で待っていた飯田さんと西川さんは目を丸くして灰色のウサギを見つめた。



「これでもう花壇は荒らされないから、大丈夫だよ」



「うん、ありがとう!」



自動販売機


翌日は学校が休みだったけれど、3人は相変わらず一緒に遊んでいた。



「探偵っていい仕事だよね。色々な人の役に立って褒められて、それでお金がもらえるんだからさ」



カツユキが言うので、テツヤは何度も頷いた。



「探偵の良さは俺が一番よく知ってる。だからやってみたかったんだ」



と、胸を張った。



ぬいぐるみ事件も花壇荒らし事件も解決して、先生や親からも褒められた。



父親からは『テツヤがそんなに人助けをするなんて、明日は嵐でも来るんじゃないか』なんて心配をされたくらいだ。



それでもテツヤの心はまだまだ満足していなかった。



もっとたくさんの人を助けて、探偵として成長して行きたいと思っている。



休日だってこうして3人で集まることができるんだから、探偵団としての活動もできるはずだと思っていた。



「なんだこのジュース」



何気なく自販機を見ていたジュンイチが立ち止まってつぶやく。



自販機の中身は時々入れ替わっているから、なにか新商品でもあるのかもしれないと思い、テツヤも中を確認した。



そこにあったのは見たことのないスポーツドリンクで、『能力ドリンク』という商品名が書かれていた。



「なんか面白そうな飲み物だな。一本買ってみようか」



ちょうど喉が乾いていてたカツユキはすぐに飛びついた。



値段は500ミリのペットボトルなのに50円だ。



毎月お小遣いを気にして遊ばないといけない中学生にとっては、とびきりの破格だ。



結局3人共同じスポーツドリンクを購入することになった。



「いつもこのくらいの値段ならいいのになぁ」



再びブラブラと歩きながらテツヤが会話を続ける。



「それは無理だろ。それよりこれ、面白い説明が書いてあるぞ」



カツユキが蓋を開ける前にペットボトルに書かれている文字を読み上げ始めた。



「このドリンクは能力ドリンクです。例えば度胸を付けたい時に飲めば度胸がついて、恐怖心を消したいときに飲めば恐怖心が消えます。ただし、このドリンクはいつでも手に入るものではありません。大切に飲んでください。だってさ!」



「面白いことを書いてあるな」



ジュンイチもその文章を読んで笑っている。



子供を楽しませるためのひと手間と言ったところみたいだ。

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