第20話
西川さんに頼んでぬいぐるみを手にしてみて、別になんの変哲もないものにしか見えない。
だけど見ている間になにかがテツヤの中で引っかかった。
なんだっけ?
それを探るためにジュンイチからメモ帳を借りて、西川さんの話をもう1度確認してみることにした。
その中にテツヤのひかかりの答えが書かれていた。
「西川さん、このぬいぐるみってボロボロになっても直してたんだよね?」
「うん。とても大切なものだったから」
「じゃあ、どこを直したのか覚えてる?」
聞くと西川さんは「ボタンの目とか、しっぽとか」と、説明しながらぬいぐるみを見つめうる。
そして異変に気がついたように目を見開いた。
「嘘、私が直したときよりも綺麗になってる!」
西川さんは驚いた声を上げて矢野へ視線を向ける。
「ぼ、僕、裁縫が得意で、それでずっと、西川さんのぬいぐるみのことが、気になってて……」
「直してくれたの?」
コクンと頷く。
ずっと直してあげたいと思っていたが、西川さんに直接話しかける勇気はなかった。
男の自分が裁縫が得意だなんて言うと、いやがられるかもしれないと思って怖かった。
だから体育の授業中にこっそり盗んで、その時間帯に綺麗に縫い直したのだと言う。
予想外の動機に3人は目を丸くして顔を見合わせた。
最初は怒っていた西川さんも、きれいになったぬいぐるみを見てすっかり怒気をそがれてしまった様子だ。
「ありがとう矢野くん。でも今度からはちゃんと断ってからにしてね」
「うん、わかったよ」
お礼を言われた矢野は照れて真っ赤になってしまったのだった。
☆☆☆
事件を解決した3人は少し夢見心地で学校を出た。
自分たちの行動が本当に役立つことになるなんて思ってもいなかった。
あの後西川さんは何度も何度も3人にありがとうとお礼を言ってきて、嬉しそうに帰っていった。
その姿を思い出すと胸のあたりがくすぐったくなる。
「なぁ、明日も探偵団するよな?」
カツユキに聞かれてテツヤは大きく頷く。
「もちろん、な!?」
ジュンイチも乗り気だ。
もっともっと人を助けて、もっともっと感謝されたい。
3人はそんな気持ちでいたのだった。
翌日3人でそろって校門をくぐったところで、西川さんが待ち構えていた。
「これ、3人で食べて」
そう言って手渡されたのは動物の形をしたクッキーだ。
「昨日のお礼に作ってきたの」
「気にしなくていいのに」
ジュンイチはそう言ったけれど、顔は嬉しそうに笑っている。
これが探偵最初の報酬ということになる。
「俺たち探偵団だから、またなにかあったら何でも言ってくれよ」
テツヤはさっそくクッキーをひとつ口に放り込んで言った。
「うん! 友達にも宣伝しておくね」
西川さんは笑顔で頷き、校舎へと入っていく。
「よかったな、友達にも宣伝してくれるってさ」
ジュンイチは手の中のクッキーを見つめて言う。
「どうせならもっと友達が多そうなヤツの手伝いをするべきだったな」
カツユキが悔しそうなかおで言ったので両隣ならこづかれてしまった。
しかし、予想に反して次の相談はその日の放課後すぐにやってきた。
「3人共、昨日のたて続きで申し訳ないんだけれど、友達の相談にのってくれないかな?」
西川さんと共に現れたのは園芸部の女の子で、飯田さんという名前の子だった。
西川さんと同じようなおとなしい雰囲気だけれど、その表情はほんとうに困り果てている様子だ。
3人はすぐにメモ帳を取り出して飯田さんから説明を聞く準備を整えた。
「園芸部では今花を育てているの。もうつぼみもできてもうすぐ花が咲く時期なんだけど、なにかが花壇を踏み荒らして、花が折れちゃってるの」
そう言われて3人は飯田さんと西川さんと共にその花壇へ向かった。
学校裏の比較的日当たりの良い場所にその花壇はあった。
しかし飯田さんの説明の通りなにものかによて花壇は踏み荒らされていて、花は一本もついていない状態だ。
「これはひどいな」
ジュンイチは花壇を見た瞬間顔をしかめた。
「でもこれ、動物の足跡じゃないか?」
気がついたのはテツヤだった。
しゃがみこんで花壇の土を確認してみると、たしかに野生動物と思われる足跡が残っている。
足跡は花壇全体についていて、踏み荒らしたことが明白だった。
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