第18話

☆☆☆


恐怖中学校放課後探偵団は、最初の仕事を探していた。



「なにか悩み事とかない?」



とクラスメートに質問して、自分たちに解決できそうなことであれば手伝うのだ。



しかし、テスト期間が近い今の時期の悩みと言えばみんな一様に勉強についてのことばかり。



3人組ではあまり力になれないことだった。



「勉強以外の悩みってみんなないのかなぁ」



仕事を探し疲れて教室で休憩しているテツヤはぼんやりと天井を見上げてつぶやく。



「そんなことはないと思う。でも今の悩みはだいたいテストに関することだろうな」



ジュンイチはペットボトルのお茶を一口飲んで答えた。



どうやら探偵団を発足するにあたって時期が悪かったみたいだ。



「じゃあ、それぞれ得意分野の勉強会をしてみるとか?」



カツユキの提案はよさそうに感じられたけれど、3人の成績は真ん中くらいだ。



必然的に教えられる相手は限られてきてしまう。



それではみんなを助けたということにはならない。



「こんなこと早くやめて、俺たちも勉強した方がよくないか?」



ジュンイチはさっきから現実的なことばかりを言う。



しかも正しいことだから他の2人はなんの反論もできなくなってしまうのだ。



思わず黙り込んだとき、ひとりの女子生徒がおずおずと3人に近づいてきた。



見たことのない生徒だからクラスが違うみたいだ。



背が小さくて分厚い眼鏡をかけているその子の胸には、西川とネームが付けられていた。



3人の内誰かの知り合いだろうかと互いに目配せをしてみるけれど、全員が左右に首を振った。



それなら人違いだろう。



そう思ったときだった。



「あの……」



蚊の鳴くような声で西川さんが3人に声をかけてきた。



3人は一瞬返事ができなかったが、すぐにジュンイチが「なに?」と返事をした。



知らない生徒に話しかけられたため少しぶっきらぼうな言い方になってしまって、西川さんはビクリと体をはねさせる。



「恐い声になってごめん」



と、慌ててジュンイチが謝る。



西川さんは少し安心したような表情になり、3人へ向き直った。



「あの、さっきちょっと噂で聞いたんだけど、君たち探偵団なんでしょう?」



その言葉に3人は目を見交わせた。



今日1日色々な生徒に探偵団です、悩みなどはないですか? と質問をしてきたから、他のクラスにまで噂が流れてしまったようだ。



「そうだけど、なにか困りごと?」



テツヤは立ち上がって食いつくように質問をした。



その態度が怖かったようで西川さんは後ずさりする。



せっかくのお客さんを逃してしまいそうな勢いなので、ジュンイチが一歩前に出た。



「探偵団って言ってもまだなんの活動もしてないんだ。それでもよければ悩みくらいなら聞くよ?」



穏やかなジュンイチの声にホッとしたように笑顔を見せる。



だけどテツヤは納得できなかった。



悩みを聞くだけで終わったら、それはただの相談室だ。



そうじゃなくて、自分がやりたいのは探偵なのだ。



困っている女性を身を挺して助けるようなカッコイイ探偵。



「実は大切なものを無くしてしまって……」


☆☆☆


今日の学校に登校してきた西川さんは、いつもどおり1年B組の教室に入って席についた。



おとなしい性格をしている西川さんはホームルームが始まるのまでの間、1人で本を読んでいたらしい。



そんな光景を思い浮かべただけで少し悲しい気分になったけれど、西川さん本人は特別気にしている様子ではなかった。



そしてホームルームが始まり、いつものように時間は過ぎていく。



「本当に、いつもの1日だったの。でも」



そこまで言って西川さんの表情が曇る。



B組は今日体育の授業があり、西川さんも他の生徒たちと一緒に体操着と体育館シューズを持って移動をした。



体を動かすことは不得意な西川さんは苦手な体育の時間、とにかく他の生徒たちの邪魔にならないよう隅っこで運動をしていたようだ。



「これもいつものことだから大丈夫」



話をしながら、西川さんは気をつかわないで、という視線を向ける。



問題はその後に起こった。



体育の授業を終えて教室に戻ってきたとき、西川さんはある異変に気がついた。



「これ」



そう言って見せられたのは学校指定のカバンだった。



別に変わったところは見られない。



「うさぎのぬいぐるみをストラップにしてカバンにつけていたのに、体育の授業から戻ってくると無くなってたの」



その言葉に3人は目を見交わせた。



「それまでは確かについてた?」



テツヤの言葉に西川さんは頷く。



「うさぎのぬいぐるみは小学校時代の友達とおそろいで買ったものなの。その子は転校しちゃって、その時にずっと友達でいようねって言い合って……」



そこまで言って西川さんは言葉をつまらせた。



友達のことを思い出したのかもしれない。



「そのぬいぐるみって、どのくらいの大きさ?」



テツヤの質問に西川さんは指で大きさを示した。



手のひらに収まってしまうくらいのサイズであることがわかる。



これなら誰かがこっそり持ち出しても、どこにでも隠すことができそうだ。



ジュンイチが隣で西川さんの証言を丁寧にメモ書きしていく。



「体育の授業はいつだった?」



今度はカツユキが質問をした。



重要な問題だ。

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