第17話 能力ドリンク
午後3時半に学校を出たテツヤたち3人組は恐怖中学校に隣接している空き地でサッカーをして遊んでいた。
「そっち、ボール行ったぞ!」
「任せろ!」
テツヤとカツユキとジュンイチの3人でするサッカーは敵味方がなく、とにかく空き地の奥へボールを運んでシュートを打った者の勝ちだった。
3人共足が早くてボールを蹴るのも上手だったが、サッカー部に入るほどの熱量はない。
こうして3人で好き勝手に遊んでいるほうが性に合っているのだった。
3人はまだ1年生だから、なにかしなければと焦ってもいなかった。
「あ~あ、暇だなぁ」
30分ほどサッカーで遊んでいたが、テツヤ大きなあくびをしてそう言った。
「どうする、今日はもう帰るか?」
髪の毛を短いスポーツ刈りにしているカツユキが言う。
「まだ4時だろ? もう少し遊ぼうぜ」
家に帰っても小さな兄弟の世話をしないといけないジュンイチは、できるだけ長く遊ぼうとする。
「それならカツユキの家に行こうか」
提案したのかテツヤだった。
カツユキはまたかよと言いたそうな表情を浮かべるが、反論はしなかった。
3人はカツユキの家の近くのコンビニに寄ってジュースとお菓子を買い込み、部屋に上がり込んだ。
カツユキの両親は共働きで、兄弟もいないから気兼ねなく遊ぶことができるのだ。
おまけにこの家では普通に放送されていないテレビを見ることもできる。
そういう放送局と契約しているらしい。
「今日はどんなドラマがあるのかなぁ」
テツヤは勝手知ったる様子でリビングのテレビを付けて番組表を確認し始めた。
ドラマ専用チャンネルや、アニメ専用チャンネルがある。
一人っ子のカツユキのために両親がしてくれたことだった。
「お、探偵ドラマやってる!」
普段から冒険ものや探偵もののマンガが大好きなテツヤはさっそくチャンネルをあわせて、お菓子の袋を開いた。
「この俳優また出てるのか」
「有名だよなぁ」
他の2人が俳優じゃ女優の話をしている間もテツヤだけはドラマの内容に見入っている。
探偵たちは無理難題と思われる事件を解決し、更に人の命まで助けて見事ハッピーエンドまで物語を進めていく。
「やっぱ探偵ってカッコイイよなぁ」
ドラマを見終えたテツヤが心底そうつぶやいたので、他の2人は同時に笑い出した。
「それはドラマだからだろ。役者は決められたセリフを言って、決められたストーリーを作ってるだけだ。だからあんなにうまくいくんだよ」
現実的なジュンイチの言葉に思わず頬をふくらませる。
「そんなことくらいわかってるよ。でも憧れなんだよ」
どうやらテツヤは本当に探偵に憧れているらしい。
そう理解したカツユキはペンとブルーのメモ帳を持ってきた。
「だったら俺たちでやってみるか?」
「は?」
テツヤはカツユキの言葉に聞き返す。
「探偵だよ、探偵」
今度はジュンイチが目をパチクリさせた。
そんな2人を見てカツユキはメモ帳にペンを走らせる。
《恐怖中学校放課後探偵団》
メモ帳の表紙に書かれた文字にテツヤが目をしばたたかせた。
「恐怖中学校放課後探偵団」
声に出して読んでみるとなんだか体がくすぐったい感じがした。
「そう。メンバーは俺とテツヤとジュンイチの3人」
カツユキは表紙を開いてメンバーの名前を書いていく。
テツヤは自分の名前が書かれた瞬間、言いしれぬ高揚感に包まれた。
ついさっき見た探偵ドラマのワンシーン、探偵が女性依頼者を守るところが思い出される。
車に轢かれて殺されてしまいそうになった女性を体当たりで助けて『もう大丈夫ですよ。犯人の車のナンバーも暗記しました』と言うのだ。
俳優を自分と置き換えて想像する。
自分は探偵で、逃げる女性を助け出す。
そしてカッコイイ決め台詞を言う。
なにもかも、完璧だ。
「探偵団って、一体なにをするんだ?」
現実的な質問をしたのはジュンイチだった。
「そんなの人助けに決まってるだろ」
テツヤはすぐに反応する。
「でも、誰の?」
そう聞かれて絶句した。
誰を手伝うのか?
そんなこと考えてもいなかった。
「まぁ最初は身近な人たちだろうな。同級生とか、親、兄弟とか」
「それってただの手伝いじゃないか?」
ジュンイチが腰の骨を折ってくるので、テツヤはしかめっ面をした。
「家の中の人助けはまぁ、手伝いとも言えるかもしれないな」
カユツキは難しそうな表情で答える。
洗濯物を畳んだり、兄弟の世話をするのとは違うことがしたい。
もっと、本当に人の命を救ったり困っている人を助けて、明るい未来を照らしたりとかだ。
「明日さっそく学校内で仕事を探してみよう」
カツユキの言葉にテツヤは目を輝かせる。
「仕事、あるかな?」
「もちろん、なにかしらはあるはずだよ。悩みのない人間なんていないから」
「ジュンイチ、それでいいな?」
テツヤはジュンイチへ視線を向けて聞いた。
ジュンイチは軽く肩をすくめて「いいよ」と、頷いたのだった。
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