第6話 喜びと不安

それは、幸せの中でのある日のことだった。

恵子が慌てて俺のマンションへ帰ってきた。


「幸樹さん、幸樹さん」

「どうした、恵子?そんなに慌てて」

「びっくりしないでくださいね、実は……」

「言わなくても、わかっているよ」

「何がでしょうか?」

「俺と恵子の子供ができたんだろう」

「どうして、わかったのですか?」

「俺もこれでもカリスマ医師といわれてるし、何より恵子を愛しているからね」


「うれしいです、本当にうれしいです」

「そう言っていただけるのが本当にうれしいです」


「俺もうれしいよ。恵子との子供を何より待っていたからね」

「どんな子供がうまれてくるかしら?」

「きっと、恵子に似た可愛らしい子供が生まれてくるよ」

「そうだといいのですが……」

「どうした、恵子?不安げな表情を浮かべて、大丈夫だよ」

「私は体が生まれつき弱いから、無事出産できるか心配です」

「大丈夫だ。俺がついているし、俺の親友が産婦人科医師として有名だからな」


「そうですか、それだといいのですけど……」

「産婦人科の先生も、出産はリスクがあるとおっしゃっていました」


「大丈夫だよ、恵子は心配性だな。俺の事が信じられないのか?」

「いえ、そのような事はないのですけど……」

「任せておけって。この俺が信じられないのか?」

「いえ、そんなことはありません。ありがとうございます」

「それより、お祝いに食事にでもいくか?」

「そうですね、でも、つわりなのでしょうか?あまり食欲がないです」

「そうか……じゃあ俺が代わりにあっさりとした、素麺でも作ってあげるよ」

「いえ、私が作ります」

「いや、身ごもっているから、今日から俺が食事をつくるよ。これでも俺は料理が上手なんだぜ」

「是非、幸樹さんの手料理を食べてみたいです」

「じゃあ、早速つくるよ」

「はい。楽しみです」

「ほら、素麺だから、すぐできたぞ。食べてごらん」

「おいしいです。さっぱりしていて」


「それは良かった。何より恵子自身の体を大事にするんだ」

「愛しているよ恵子」


「はい。ありがとうございます。どうして、そんなに幸樹さんは優しいのですか?」

「それは、さっきも言ったように恵子を愛しているからだよ」

「ありがとうございます。本当にうれしいです」


俺は幸せでいっぱいだった、ある日のことだ


「幸樹さん、幸樹さん」

「また、どうしたんだ?慌てた顔をして」

「実は生まれてくる子供が双子なんです」

「それはいいね。俺もうれしいよ」

「でも……」

「やっぱり出産のことを心配しているのか?」

「はい、心配で心配でたまりません」

「大丈夫だって何回言わせるんだ」

「申し訳ありません。幸樹さんも心配ではありませんか?」


「あ、いや、気にすることはないよ……」

「必ずかわいい子供が生まれてくるよ」


「そうでしょうか……」

「ああ、大丈夫だ。そういえば、男の子だろうか?女の子だろうか?」

「幸樹さんは、男の子と女の子はどっちがいいですか?」

「俺と恵子の子供ならどっちでもいいよ」

「私もそうですけど、どちらかといえば女の子がいいです」

「そうだな。女の子が可愛いな、今のうちに名前を決めておくか?」

「でも、男の子か女の子かわからないじゃないですか?」

「俺の感だと、恵子に似た女の子の双子だと思うんだ」

「そうなのですか?」

「ああ、香住と香織はどうかな?」

「素敵な名前ですね」

「そうだろう、俺のセンスが光るだろう」

「はい。不安ですけど、楽しみです」

「大丈夫だよ。きっと恵子に似た可愛い女の子が生まれてくるよ」

「はい」


しかし、そう言う俺も不安ではあった。そして、月日がしばらくたった。


「恵子、つわりが酷そうだな」

「はい、気分が悪くて仕方ありません」

「そうか、出来るなら俺が変わってあげたいけどな。そういう訳にもいかないな」

「幸樹さんは仕事が待っていますから」

「いや、仕事は全てキャンセルしたいくらいだよ」

「それはできないじゃないですか?」

「まあな。仕方ないけど、もう少しすれば安定期に入るよ」

「そうだといいのですけど……やはり不安です」


「全く、恵子は本当に心配性だな……」

「そういえば、恵子にプレゼントがあるんだ」


「それは何でしょうか?」


「デパートで買ったのだけど、赤と青のペアのペンダントだよ」

「二人への子供へ僕らの想いとして渡そう」


「それはいい考えですね」


恵子の幸せそうな表情が印象的だった。しかし、俺にも不安はつきまとっていた。

この幸せが永遠に続くことを祈っていたのだった。

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