第4話 幸せの中で

俺と恵子が同棲を始めてから、初めて翌日を迎えた時のことだった。


「恵子、おはよう。昨日はちゃんと眠れたかな?気になって眠れなかったんじゃないか」

「いえ、そのようなことはなかったです。幸樹さんはどうでしたか?」

「恵子がいたから安心して眠れたよ」

「それは、よかったです」

「ところで、僕のいびきが酷かったんじゃないか?」

「いえ、すやすや寝ていましたよ」

「そういえば、恵子のご両親に挨拶をしに行かなければいけないね」

「そうですね。私の父は厳格ですから、少し心配です」

「大丈夫だよ。僕が誠意をもって挨拶するから心配しないで」

「ありがとうございます」

「私も幸樹さんの実家に、挨拶にいかないといけないですね」

「それが残念なことに、もう二人とも他界していてね」

「それは、寂しいですね」

「でも、俺は恵子がいてくれるからそれだけでいいよ」

「そう言っていただけると嬉しいです」

「じゃあ、今から行こう」


そして、俺は恵子の実家に到着した。さすがに俺も緊張していた。


「お母さん、今日は私の婚約者をお連れしました」

「まあ、それは良かったわね。どうぞ、お上がりください」

「ありがとうございます。お母さま、それでは失礼いたします」

「どうぞ、お上がりください。部屋が散らかっていますが……恵子教えてくれたら、ちゃんと片付けておいたのに」

「ごめんなさい。急で」

「いえ、私が突然に恵子さんに言い出したものですから」

「それでは、どうぞ」

「はい、失礼いたします」


俺は父親の反応が気になっていた。


「あなた、恵子の婚約者が来たわよ。挨拶をして」

「なんだと。どこの奴だ」

「ほら、そんな大きな声で言ったら、聞こえて失礼でしょう」

「ああ、すまん、すまん」

「いえ、気にされないでください」

「ところで、君の名前は?」

「失礼しました。私は村田幸樹と申します」

「どこの大学を出たのかね?」

「東京大学です」

「それは立派だな……」

「ほら、あなた、あの、東京大学よ。素敵な方でしょ」

「まあ、そうだな……職業は何だね?」

「一応、医師をしております」

「ほら、あなた、そういえば恵子の手術をしていただいた先生ではありませんか?テレビで見かけるカリスマ医師ですよ」

「いえ、お母さん、大したことはないですよ」

「そうなのか?君が恵子を助けてくれたのか。」

「はい、恵子さんの手術をさせていただきました」

「それは、失礼しました。あの時は恵子を助けてあげて、ありがとうございました」

「いえ、恵子さんも元気になられて良かったです。今日は実はお願いがありまして参りました」

「わかっておる」

「はい、恵子さんと結婚させていただきませんか?」

「そうだな……」

「ほら、あなた、そういう言い方はないでしょう。こんなに素敵な方だし、恵子を助けてくださった方です。こんなにいい話はないわよ」

「村田さんでしたか、これは失礼しました。どうか、恵子を幸せにしてあげてください」

「もちろんです。恵子さんと幸せな家庭を作ります」

「ありがとう。どうか、恵子を頼みますよ」

「わかりました、必ず恵子さんを幸せにします」

「村田さんでしたね。今後もよろしくお願いします」

「私の方からも、よろしくお願いします」

「任せてください。お母さま」

「おい、村田さんにお茶でも出しなさい」

「ああ、これは失礼しました」

「いえ、お気遣いなく」

「いや、今日はゆっくりしていきなさい」

「ありがとうございます」


そして、俺は幸樹のマンションへ帰ったのだった。


「恵子、恵子の両親が認めてくれて、良かったな」

「幸樹さん、私はこんなに幸せでいいのでしょうか?」

「もちろんだよ。俺も恵子がいてくれて幸せよ」

「嬉しいです」

「俺もだよ。そういえば、気が早いけど結婚式はどうするか」

「出来れば沖縄の小さな島の教会で、二人だけの結婚式をお願いしたいです。幼い頃からの夢でした」

「それは、いいね」

「それじゃ、東京に帰って来てから披露宴はしようか?」

「はい、ありがとうございます」

「早く、恵子と俺の子供を作りたいな」

「はい、私もそうしたいです。でも、体が弱いから大丈夫でしょうか?私は長く生きられないかもしれませんが……」

「大丈夫だよ。俺がついているから。これでもカリスマ医師といわれているからね」

「そうおっしゃっていただけると、うれしいです」

「いつくらいに式をあげようか?」

「それは、幸樹さんにお任せします」

「そうだな、最近はオペの予約が集中しているんだ。落ち着いたら式をあげようか」

「はい、楽しみです」

「それじゃ、今日はお祝いでもしよう」

「はい、どこに行きましょうか?」

「いや、俺は恵子の手作りの料理が食べたいな。何より恵子の料理が上手いよ」

「私は料理が下手ですが、よろしいですか?」

「そんなことはないよ、楽しみだな」

「ありがとうございます。わかりました。今から頑張って作ります。少しお待ちください」

「ゆっくりでいいから、俺はテレビでもみているよ」


そして、恵子は料理を作り始めた。


「出来上がりました。お粗末ですが……」

「そんなことはないよ。豪華じゃないか」

「はい、幸樹さんのことを想ってつくりました。お口に合うといいのですが?」

「早速食べるよ。おお、これは美味いじゃないか。恵子は料理の才能があるよ」

「お世辞でもうれしいです」

「いや、お世辞じゃない。本当に美味いよ」

「ありがとうございます」


俺はあまりに幸せ過ぎて、このまま幸せが続くことを祈っていた。

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