第3話 葛藤
僕は孤独という闇にいた。正美さんと和明は親しく交際していて僕は辛かった。
「和明さん、今日も一緒に帰りましょう」
「ああ、正美さん」
「俺達はもう帰るけど、健作もそろそろ帰らないと。健作はまだ仕事をするのか?」
「ああ、僕は残業をしないと仕事がたまっているからね。それに、出版物の締め切りが迫っているんだよ」
「そうか、じゃあ、ボチボチするんだな」
「ああ、わかったよ。でも、そういう余裕はないな」
僕達の中に上司である係長が話しかけてきた。普段は厳しいけど、優しくて僕は尊敬している。疲れている僕を見かねたのか、とても優しい声で僕に話しかけてきた。
「健作君、頑張っているけど、そろそろ帰った方がいいぞ」
「でも、係長、仕事が残っていますし、締め切りまで時間がありませんから」
「明日しなさい。私がフォローしておくから、心配ないぞ」
「いいのですか?」
「ああ、俺に任せろ」
「わかりました」
僕は生きている意味が今だに、わからなかった。
「ありがとうございます。係長。係長は生きていて、楽しいですか?」
「何を突然、言い出すのだ。何かあったのか?」
「いえ……」
「なんなら、俺が酒にでも付き合って話を聞いてやるぞ」
「大丈夫です」
「それならいいが、もう帰りなさい」
「はい」
「君も入社して2年がたつ、そろそろ、交際相手でみつけるんだな」
「はい……」
「ただ、この島は人口が少ないからな。女性も少ないよ」
「そうですね」
「いつか、いい人ができる。その時まで待ちなさい」
「はい」
高校を卒業して、失意の2年の時が既に過ぎていた。相変わらず父親は酒に溺れている。なぜだろうか?僕も親子だから、いずれああなるのだろうか?
「父さん、今日もまた酒かよ」
「ああ、うるさい。ところでお前は彼女の一人でもできたのか?」
「関係ないだろう。それより仕事をしろよ。そんなだから、やせ細って白髪頭になるんだよ」
「お前には関係ないだろう」
「関係あるよ。僕は父さんの子なんだろう」
「そうだ……俺の子だよ」
「どうした、父さん。急に元気がなくなって。酒の飲みすぎだよ」
「うるさい……」
「父さん、しっかりしろよ」
「健作さん。ご主人様も若い頃は……」
「もういいよ。その言葉は何回も聞き飽きた。いずれは、僕もそうなるの?」
「そんなことはありませんよ」
「もういい。寝る」
「そうですよ。ご主人様、ゆっくり休んでください」
僕はその夜もやはり眠れなかった。眠れない、眠れないじゃないか・・・
何が交際だ。しょせん、僕は一人のままだ。一体何のために生きているんだ。
朝は家政婦からの食事をとり、昼食を少し食べて、夜は眠れない。
そして、仕事もろくに出来ず何が交際相手を探せだ。
馬鹿野郎。眠れないじゃないか。
朝はいつも通り悲しくやってきた。
「健作さん、気をつけていってらっしゃい」
「いってきます……」
「昨日は眠れていないのではないですか?」
「いえ……」
「それなら、いいのですが、顔色が悪いですよ」
「僕は元々このような顔です……」
「いえ、そんなことはありません。昨日は眠れなかったでしょう」
「家政婦さんには関係ないでしょう」
「そうですね、ごめんなさい」
「あ、いえ、僕こそ感情的になって申し訳ありません」
「あまり無理をされないようにしてくださいね」
「はい……」
さらに僕に苦悩が襲い掛かる。やはり、和明と正美さんの楽し気な声が聞こえてくる。正美さんの事は今は想ってはいなかったが、僕には辛かった。辛い理由自体がわからなかったのだ。
「和明さん、昨日のドライブは楽しかったですね」
「ああ、先日、買ったばかりの新車だからね。オープンカーでかっこいいだろう」
「そうですね。和明さん。また、今度も乗せてください」
「ああ、いいとも。そういえば健作は運転免許はまだだったな」
「そうだよ、仕事でいっぱいだから免許を取る時間がないだけだよ」
「それは、お前の能力が足りないせいだろう」
「なんだと」
「やめて」
「ああ、正美さん。悪かったね」
「健作さんも顔色が悪いですよ。一度、診療所で診てもらった方がいいと思いますよ」
「ありがとう、心配してくれて。正美さん」
「いえ、この島はバスで行くしかないですね」
「なんなら、俺が送ってやろうか?健作」
「いいよ、バスで行くよ」
「そんなに怒らなくてもいいじゃないか」
「俺はどうせ……」
「健作さん、ごめんなさい」
「いえ、正美さんは悪くないよ」
「ああ、俺も悪かったよ」
「いや、和明のせいでもないよ」
「それじゃ、私がバスの時刻表を見てみますね」
「ありがとう。でも、僕が帰り道に確認するから。大丈夫」
「本当にごめんなさい。健作さん」
「謝るのは僕の方だよ。正美さん。ありがとう」
「健作さん、元気をだしてね」
「ああ、バス停まで行ってみる。歩いて10分くらいの場所だろう」
「そうよ、健作さん」
バス停に寂しげに歩くも何かが待ち受けていた。それは僕の運命的な出会いだった。
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