第2話 かがやき

「キャア、見て。幸樹さんよ」

「本当、本当。あのテレビにも出演している、カリスマ脳外科医師よね」

「スタイル抜群、ハンサムで振舞いもかっこいいよね」

「うん、うん」

「すみません、サインしてください」

「ああ、いいですよ。これでいいかな?」

「はい、握手もしてもらえますか?」

「ああ……どうぞ」

「きゃあ、ありがとうございます」

「頑張ってください。いつも応援してますから」

「君たちも頑張ってね」


キャア


俺は村田幸樹。これでもカリスマ脳外科医師と呼ばれており、毎日のようにオペの日が繰り返されている。


「幸樹君、今日のオペについて話をしたいのだが時間はあるかね」

「ええ、もちろんです。院長」

「今日のオペは難病の患者でかなり難しいが、君ならやってくれるかな?」

「ええ、もちろんです」

「問題はここの腫瘍だが、どうかね?」

「問題ありません」

「さすが、カリスマだけあって頼もしいな」

「任せてください」


場所は変わって、患者の病室にて。


「お母さん、私は大丈夫かしら?後、何年生きられるの?」

「恵子、大丈夫よ。今日の手術はあのカリスマ脳外科医師の村田幸樹さんだから」

「お母さん、もし手術が成功しなかったら……」

「駄目よ。悪い方に考えたら、必ず成功するからね」

「はい」

「泣かないで。大丈夫よ」

「お母さん、怖い……」

「恵子、大丈夫だよ」

「お父さん……お父さんまで来てくださったのですね」

「ああ、私の可愛い恵子じゃないか、来ないはずがあるものか」

ううう

「泣くな。恵子。気を強く持つんだ」

「はい」


そして、オペが始まった。

オペ室までの階段の音が、冷たく恵子の心に響き周囲は慌ただしい。


カタ カタ カタ カタ カタ

タッタッタッタ


「恵子、大丈夫よ、お母さんの手を繋いで」

「はい」

「お母さま、そろそろ手術を始めますので、お待ちください」

「どうか、恵子を助けてあげてください」

「大丈夫ですよ。お母さん。心配はいりません」

「はい」


オペの長い時が恵子の両親に残酷に響く。


「よし、成功だ」

「さすが、幸樹君だ。この難しいオペを見事にやってくれたな」

「いや、院長。やるべき事をしたまでですよ」

「しかし、この患者は美しいな」

「そうですね。本当に美しいですね。助かってよかったです。」

「ああ、幸樹君。見事としか言いようがないよ。どうだ、この際、彼女と交際でもしたらどうだ?」

「からかわないでください。院長。まったく、院長も相変わらずですね」

「まあ、君も色男だから、女性には不自由しないだろうな」

「そんなことはないですよ」

「まあ、さすが、お手並み拝見させていただいたよ」

「ありがとうございます」

「おめでとうございます。幸樹さん」

「いや、君達スタッフのおかげだよ」


パチパチパチパチ


恵子のひかりが幸樹を包む瞬間であった。翌日、幸樹は手術した美しい女性に心を惹かれ看護師に尋ねた。


「あ、田上君。昨日の患者さんは何号室だ」

「はい、村田先生。505号室です」

「わかった、経過を見に行くから彼女に伝えておいてくれ」

「はい」


俺は彼女の病室を訪れた。


トントン


「入ってもいいかな」

「ほら、恵子、昨日手術してくださった先生よ」

「先生ですか……」

「ああ、良かったよ。無事に手術が成功して」

「ありがとうございます」

「泣かなくてもいいよ。君が頑張ったから僕も頑張れたんだ」

「はい」

「僕は村田幸樹というけど、君は?」

「私は宮原恵子と言います。」

「そうか、たまに経過観察にくるからね」

「はい」

「それでは、失礼します」


俺の心にひかりが差し込んだ。


「村田先生。先生、もしかして、あの宮原さんに気があるんじゃないですか?」

「何を言う、上田さん」

「私も女性の看護師として、ピンときましたよ」

「そんなことはない。さっさと仕事をしたまえ」

「はい」

「先生、これを持っていってみたらどうですか」

「これは花束……」

「きっと、恵子さんも喜びますよ」

「上田さん、誤解しないでくれ。でも受け取っておくよ。ありがとう」


コトコトコト


コンコン


「はい、どうぞ」

「宮原さんだったね。痛みはないかな?」

「はい、今のところありません」

「これは看護師からもらったんだ。手術成功のお祝いの気持ちだと思ってくれ」

「わあ、ありがとうございます。きれい……」

「良かったよ、気に入ってもらえて。また、明日も来るよ」


時は優しく流れた。


「恵子さんだったね」

「はい」

「そろそろ、今日は車椅子で、病院の敷地内を散歩でもしてみようか?」

「いいのですか、先生」

「ああ、俺はそうしたいな。君が嫌ならかまわないけど……」

「いえ、私も行きたいです。連れて行ってください」

「じゃあ、今から行こう」

「はい」

「久しぶりに外の空気を吸ってみてどうかな?」

「はい、気持ちがいいです。空気が美味しいです」

「あそこに花が咲いているよ」

「本当ですね。きれい……」

「でも、先生から頂いた花を大事にしています」

「そうか、ありがとう恵子さん」

「いえ、よろしければ、恵子と読んでください」

「いや、それは……」

「じゃあ、俺のことを幸樹と言ってもいいよ」

「いえ、幸樹さんとお呼びします」

「じゃあ、恵子でいいのかな」

「はい」

「恵子は花が好きなのかな?」

「はい」

「ちょっと待ってて。ほら、花壇から花をとってきてあげたよ」

「まあ、きれい」

「でも、恵子の方がきれいだよ」

「そんな……恥ずかしいです」

「本当だよ。退院したら、僕と交際してもらえないかな」

「突然、そう言われても……私でよろしいのでしょうか?」

「もちろんだよ。いつまでも一緒にいたいよ」

「うれしいです。本当ですか?」

「ああ、退院したら、どこか行こうか。どこがいいかな?」

「うれしいです。幸樹さんが行きたい場所ならどこでもいいです」

「いや、恵子の行きたいところに行こう。どこがいい?」

「それなら、私は海が好きなので、海にいきたいです」

「わかった。そうしよう」


海が二人を導く時は短かった。


「わあ、幸樹さん。ほら、見てください。海がきれいですね」

「そうだね。もう体の方は大丈夫かな?」

「はい、おかげさまで。だいぶ良くなりました」

「それは良かった。僕も安心だよ」

「私は小さい頃から体が弱くて……それでずっと悩んできました。一度だけでいいので、沖縄の海ではしゃいでみたいです」

「じゃあ、僕が連れて行ってあげるよ。突然でも申し訳ないけど、恵子さん、僕と結婚しよう」

「え、本当ですか?私は体が弱いのですよ。幸樹さんを幸せにしてあげる自信がありません」

「大丈夫だよ。恵子を幸せにすることが僕にとっての幸せだからね。まかせてくれ」

「うれしいです。夢のようです」

「実は準備してきたものがあるんだ」

「何でしょうか?」

「受け取ってほしい。僕の気持ちだよ」

「ありがとうございます。きれいな指輪ですね。うれしいです」

「僕が恵子を必ず幸せにするよ」

「はい、よろこんでお受けいたします」


俺はプロポーズするのに迷いはなかった。

二人の幸せな空間がそこにはあった。


「ここが、僕のマンションだよ。少し狭いし散らかっているけど、ここで一緒に住もう」

「よろしいのですか」

「ああ、恵子さえよければだけどな」

「私は……」

「泣かなくていいよ。僕が幸せにするといっただろう」

「いえ、もう、幸せです」


幸せな日々が二人を包むのだろうか。


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