物理系魔法少女、感染は気合いでなんとかなる

 「がはっ」


 全身に走った激痛。焼けるような痛みが爪の攻撃を受けた箇所に走る。


 「闇よ!」


 シロエさんの白い闇によって地面に激突する事はなかった。


 俺の腕の中から出て、回復魔法を使ってくれる。


 油断していたとは言え、あの一撃で右腕がへし折れた。


 「あん?」


 攻撃を受けた場所が焼け爛れたような、腐ったような、どす黒い色に変色していた。


 シロエさんの回復魔法も通ってないようだ。


 その場所がまじで痛い。しかも、その黒いのは広がっていく。


 「まさか腐食! くっ、まだですわ!」


 「腐食? 腐ってんのか。でも、広がっているのなら」


 俺は骨の治った右腕を隆起させる。


 「らあああああああああ!」


 叫び声しかあげられない激痛が巡り、腐った部分は徐々に治っていく。


 「どうなってますの?!」


 「なんかゾンビ感染っぽいし、気合いで収まるんじゃないかと思って⋯⋯」


 「そんなの普通はありえませんよ!」


 自己再生やアンデッドに対する特攻や耐性のおかげかもしれない。


 気合いで進行を遅らせれば、シロエさんの魔法も相まって治るのだ。


 さて、犯人の顔でも拝むとするか。


 俺達は空を羽ばたくドラゴンを見上げる。


 『生きてたのか!』

 『なんか変じゃね?』

 『ポツポツ落ちてる』


 さっきまでのドラゴンとは大いに違い、片目は外れて今でも落ちそうだ。目を繋ぐ神経が見えている。


 身体のあちこちで腐っているような色合いで、血が途切れることなく、ポトポトと落ちている。


 骨もあちこちで露出している。翼にも穴がある。


 俺達の戦いであんなにボコボコにはなってないのだが、ゾンビ化した影響なのだろうか?


 「なんでこう、俺はアンデッドとの遭遇率が高いのかな」


 嫌になるぜ。


 「さながら、ドラゴンゾンビと言ったところでしょうか?」


 「そうだな。一番しっくり来るよ」


 ドラゴンが緑色の炎を吐き出した。


 俺達を殺すと言う意志は変わらない様子だ。


 「ふんっ!」


 裏拳を使った衝撃波で、その炎を分散させる。


 ドラゴンゾンビは上を向いて、黒い霧を出し始めた。


 「レッドドラゴンからなっているのに、ドラゴンゾンビの特徴もしっかりと使えますの? それは厄介ですわね」


 『うわ。嫌な思い出が蘇った』

 『嫌な予感しかしない』

 『なんだっけこれ?』


 「腐食の雨ですわ。雨粒に当たると、徐々に腐るのですわ。全て」


 「それは厄介だな」


 シロエさんが歯を食いしばる。


 「わたくしが時間を稼ぎますので、逃げてくださいまし。あれは超広範囲の厄介な攻撃ですわ。腐食耐性のある装備を着てない以上、戦えないですわ」


 「シロエさんはどうするの?」


 「アカツキさんが帰ったら、折を見て逃げ出しますわ。わたくしの闇なら腐食攻撃もどうにかなりますからね」


 いつもの笑みを浮かべるシロエさんの肩に、俺は手を置いた。


 「逃げねぇよ」


 一歩前に出る。


 「助っ人ホワイトマジックガールなんだろ? 助ける相手がいねぇと、ダメじゃないか」


 今も広められている雲を確認する。


 かなりと高さだが、うん。いけるな。


 「それに俺、脳筋らしいからさ。難しい事分かんねぇ」


 『らしいってなんだよ、らしいって』

 『脳筋じゃないの?』

 『え、自分の事脳筋だと思ってませんか』


 『悲報、アカツキさんは現実を見れてなかった』

 『らしい、じゃないんだよな』

 『脳筋ですよw』


 足に力を入れて、構える。


 殴りの火力を出すには下半身の力も重要となる。


 「それにさ、危険ならぶっ飛ばせば良いだろ」


 強く拳を固めると、光を発する。


 「必殺マジカルシリーズ、本気殴り上げマジカルアッパー


 俺の本気で突き上げた拳は、黒く淀んだ雲に衝撃波を直撃させた。


 その勢いはそれだけでは止まらない。


 殴った衝撃で地面にクレーターができたのだ。


 火力は別格、雲は殴り上げたところを中心に波紋上に広がって行き、雲から光が刺し始める。


 その光は大きくなる。


 「これでも俺は逃げる必要があるかな?」


 「そう、そうですわね」


 唖然としたシロエさんがいつもの調子を取り戻し、俺の隣に立った。


 「ドラゴンソンビの厄介な点は腐食攻撃、攻撃を受けるのは避けてくださいまし」


 「りょーかい」


 「アンデッドの特徴として、物理攻撃の耐性、再生能力もあるかもしれません。それだけではなく、攻撃力も上がっているかと」


 しっかりと説明してくれた。


 ほんと、厄介な奴らに好かれたな俺は。


 それにシロエさんを巻き込んだ形になってしまっている。


 「それと、一番厄介な点がありますわ」


 「ほうほう」


 「ゾンビになる前にアカツキさんの強い攻撃を受けました。その影響で、物理攻撃耐性はとんでもないと思いますわ」


 おっと、それは俺にとってかなりの悲報じゃないか?


 どれだけ耐性があろうとも、関係ないけどね。


 倒せるまで殴るだけだ。


 それに今回はシロエさんって言う魔法を扱える人も居るんだ。


 長い時間はかからんだろ。


 『ドラゴンゾンビか。厄介だな』

 『空は飛ぶし物理攻撃は通りにくいし⋯⋯なんでこうなるのやら』

 『さすがはアカツキさんだな』


 『アカツキクオリティは健在か』

 『頑張れ!』

 『まだ行けるだろ? 知らんけど』

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