物理系魔法少女、投擲検定一級の自信

 ドラゴンゾンビはさっきまでの戦いをしっかりと学習しているのか、自分のブレスは届いて俺の攻撃が届かない位置でちまちま攻撃して来る。


 予備動作無くして長距離の投擲は不可能なので、俺からの攻撃方法がマジでない。


 「魔法が届きませんわ」


 シロエさんの闇の攻撃魔法も距離があるので勢いが落ち、そこをドラゴンの攻撃で沈められる。


 闇の根っこもあそこまでの距離だとさすがに意味は無いのだろう。


 「シロエさん。一つだけ提案が」


 「⋯⋯わたくしを投げますか?」


 察しが良いね。


 その意味を込めて笑みを浮かべると、彼女は引き攣った笑顔をしてくれた。


 これは同意を意味しているのだろう。それ以外の考えはしないでおく。


 『助っ人さんの理解度が高い件』

 『実際有効打を与えるのはその子だしな』

 『問題は空中で無防備になったところを攻撃されないかだな』


 『物理攻撃を耐えれそうなのはアカツキだしな』

 『さすがに助っ人ちゃん一人は厳しい』

 『どーすんだろ』


 『てか、少しは投げる選択肢に迷いを作ろうよ』

 『これしかないのかな?』

 『そろそろ投げそう』


 俺はシロエさんの腕をしっかりと掴んで、彼女は魔法で掴まれた腕を補強する。


 そりゃ、折れたら大変だしな。


 「行っけ!」


 俺は全力でドラゴンゾンビに向かってシロエさんをぶん投げた。


 闇で自分を覆って風圧も防いでいる。


 「ん?」


 『なんか伸びてるな』

 『なんだあれ?』

 『カメラさーん』


 シロエさんがドラゴンまで迫っていくのを眺めていたら、彼女の身体から白い闇が伸びている事に気づいた。


 それを目で追っていくと、俺の身体に巻きついた闇に繋がっている事が分かった。


 つまりあれだ。


 俺が投げるための準備をしている間に、シロエさんは道ずれの準備をしていたのだ。


 理解したほぼ同時、一瞬にして硬くなった闇がシロエさんの勢いに引っ張られる。


 闇を引き剥がす事はせず、俺は身を任せて一緒にドラゴンに向かって飛んど行く。


 まさかこんな方法ができるとは。


 『まじかよ』

 『これなら確かに近づけるな二人とも』

 『そろそろ助っ人さんが着くな』


 シロエさんの右手に大量の闇が纏わりつき、巨大な腕へと変貌した。


 その手は俺とシロエさんを繋ぐ命綱のような闇をしっかりと掴んだ。


 「選手交代ですわ!」


 「ぬおっ!」


 身体にかかる重量感。


 回転を乗せたぶん投げで俺は加速し、ドラゴンゾンビに迫る。


 二度の投擲加速、さすがのドラゴンも予想外だったのか、奴の顔面に迫った。


 身体中から発生しているこの鼻を突き刺すような死臭が殴るのを拒否させる。


 だが、そんなんで止まっていたらコイツには勝てない。


 好き嫌いで殴らないなんてできないんだ。


 拳を固めて、俺はドラゴンゾンビの顔面をぶん殴った。


 吹き飛び撒き散らされる血肉は全て腐っているように見えて、俺にかかる返り血も当然腐っている。


 「あつっ」


 伝染しているのか、血肉を浴びた箇所が焼け爛れる。


 「闇!」


 シロエさんの闇が俺の足場を形成して、彼女もすぐさま近くに来てくれる。


 ドラゴンゾンビは砕けた箇所を再生させながら飛んでいる。再生中は攻撃してこないらしい。


 シロエさんも回復魔法で皮膚が腐った箇所を治してくれる。


 「やはり再生能力はありましたか」


 「酷いよ。魔法をめっちゃ撃つかと思ったのに」


 「それも考えましたが、アカツキさんの一撃の方が強いと判断しましたわ」


 てかさ、空中に闇を顕現できるなら最初からこれをキープして欲しかったな。


 それだったら、わざわざぴょんぴょんする必要なかったし。


 魔力消費がえぐいのかな?


 「そんじゃ、今のうちに連打するかっ」


 俺が走る体勢に入ると、シロエさんが全力で止めてくる。


 「この魔法はとても薄いんですわ。アカツキさんが走ったらすぐに壊れますわ!」


 「⋯⋯なるほど」


 使わなかった理由はこれか。


 壊れちゃったら意味無いもんな。うん。


 「わたくしは飛べませんし、この足場を壊されると落下しますわ。死にますわ」


 「それは冗談ですわよね?」


 語尾をマネしつつ、言い返すと彼女は目を逸らす。


 闇を使えば落下死は防げる。


 全力で走らないなら足場は無いに等しい⋯⋯のかな?


 足場があるだけで戦力の幅は変わると思う。


 「まずはわたくしが牽制しますわ⋯⋯」


 シロエさんの周囲に魔法陣が浮かび上がり、大量の闇が放たれる。


 ドラゴンゾンビは結界の魔法で防ぎに入るが、それでも押され始める。


 『助っ人さん普通に強いよね』

 『アカツキさんを助ける人だからな。強さは一流よ』

 『てか、一点集中の攻撃で結界を破壊しようとしてるやん』


 『めっさ魔法制御できてるな』

 『うちのクランに欲しいレベルや』

 『アカツキどこ行った?』


 シロエさんの攻撃にピンチを感じたのか、ドラゴンは結界を解除して少しのダメージを受けつつ高く飛ぶ。


 だが、ここは明るくても外ではなくダンジョンの中、どうしても限界高度はある。


 シロエさんの周りをグルグル飛びながら、魔法を避ける。


 対して彼女は偏差撃ちを駆使して魔法を当てて行く。


 「グガアアアアアアア」


 咆哮を上げ、シロエさんにブレス攻撃を放つ。

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