緑風の魔法少女と黒闇の魔法少女
緑風の魔法少女、ミドリは路地を歩きながら呆然と今後の事を考えていた。
天使を崇拝して、役に立とうとし、悪魔を殺そうと、悪を滅ぼそうとしていた。
いずれ消える感情はできるだけ大切にしていこうと決めていた。
愛情も喜びも、無くなる事を受け入れていたし、怖くはなかった。
なかったのだ。
しかし、アオイが暴走して助けようとした時に現れたミカエル。
友達だと、仲間だと言っても意味が無く、不要の烙印をアオイに押して処分しようとした。
仲間であっても、悪魔に取り憑かれたらそれまでの存在だとされた。
その瞬間、ミドリは自分の行いに恐怖を覚えたのだ。
感情が消える事に対する恐怖と言うより、大切にしようとした感情が天使に壊されると言う恐怖。
ミドリの甘さや優しさは、完全に魔法少女にはなりきれない要因となっていた。
何をするにも意識が向かない。
「はぁ。あかんな。学業を疎かにしてもうてる」
それだと施設の家族達が心配してしまうと、必死に笑顔を作ろうとする。
そんなミドリの背後の建物屋上に、真っ黒な少女が立っていた。
静かに向けられる殺気を捉えたミドリは、一瞬で理解した。
「クロエ⋯⋯」
「ミドリお姉様、お久しぶりでございますわ」
真っ黒な魔法少女の衣装に、ボブカットの少女。
「銀光に続いて、黒闇も来たの?」
「そうですわ。わたくしに任された任務はただ一つ、裏切り者の排除ですわ」
「⋯⋯そう、か」
ミドリは天使に裏切り者、不良品の烙印を押されたと言う事になる。
信頼していた存在から見捨てられた、それはミドリの心に深淵のそこまで続く穴を空けた。
「うちは、裏切ったつもりはないけどなぁ」
「それは残念ですわね。天使様の意向を無視した時点で、裏切りと変わりないですわ」
「そっか。そっかぁ」
これまでの人生を振り返り、虚しい気持ちになる。
でも、今さら生き方を変える事なんて無理だ。
「ミドリお姉様、わたくしは悲しいですわ。わたくしがどれだけミドリお姉様を信用していたか、お分かりですの?」
「⋯⋯だったら、一緒に」
一緒に行こう、戦おう、そう口にするよりも前に、怒気のこもったクロエの言葉が辺りに響く。
「裏切り者!」
その一言だけを叫んだ。
「裏切り者裏切り者! わたくしが、ミドリお姉様をどれだけ、信用していたか、どれだけ慕っていたか。どうして、天使様の考えに逆らったのですか!」
「それは⋯⋯」
「友達だから? くだらないですわね。ミドリお姉様には我々がいるではありませんか。悪魔にたぶらかされたゴミなんて、死んで当然ですのに!」
「アオイちゃんをゴミって言うなや!」
互いに怒りをぶつける。
それだけでクロエの覚悟は決まった。
「残念ですわ。わたくしはミドリお姉様の事、血の繋がった姉のように思ってましたのに⋯⋯結局、
「そんな。うちも」
ミドリは弁解しようとした。
自分もクロエの事を妹のように思っていたと。
しかし、その言葉が届くよりも前に、深淵のように真っ黒な闇がミドリを覆う。
「ミドリお姉様、身体が心に染まる前に、永遠の闇の中で、お眠り下さい」
「くっ」
最高速度でミドリはクロエの背後に立った。
風速で動けるミドリにとって、不意打ちだろうが即座に反応して回避はできる。
どこぞの自称光速の魔法少女とは違い、完璧な風速。
「さすがですわねミドリお姉様。あぁ、だから辛い。裏切られた事が辛い。辛いですわ」
爪を歯でギシギシしながら、怒りを自分の爪に与えていく。
それによって頭に昇った血が下がっていく。
「苛立ちますわ。ミドリお姉様、素直に闇にお沈みくださいませ。闇の中は静かで、心地いい場所ですよ。ほら、見てくださいまし」
床に広がる闇の中から人の顔のようなモノが出て来る。
その全ては安らかに眠っている様に見える。血の通ってない真っ白な肌。
「この中にミドリお姉様もお入りください。安心してくださいまし。孤独にはしませんわ。常にわたくしと一緒ですわよ」
「お断りや!」
「残念ですわ! 今の綺麗なお姉様の状態で、入って欲しいのですが」
クロエは空に向かって手を掲げる。
「おいでなさい」
手から広がる闇からゆっくりと現れる三つの頭を有した狼。
ケロベロス、定番な地獄の番犬。
「わたくしのお気に入りの
テイムした魔物をこんなところで出すのは異常である。
そもそも危険な魔物を外で出せるにはある程度の条件下じゃないとダメである。
しかし、クロエはそんな世界の条件すら無視して魔物を呼び出した。
「さぁ、ミドリお姉様の身体が心に染まる前に、綺麗な状態で、食べなさい」
ケロベロスは三つの頭で同時に咆哮をあげた。
ミドリを食らう為に動き出す。
「ほんまは嫌や」
緑色の魔法少女衣装がなびく。
ミドリを中心に広がる強風。
「素晴らしいですわ」
推奨レベル8のダンジョンの魔物であるケロベロスをクロエアレンジした魔物。
そいつに向かってミドリは動いた。
◆
「さすがですわね」
去っていたミドリの背中を名残惜しそうに見つめるクロエ。
その下には首が切断されたケロベロスが倒れていた。
「はぁ。この
歪んだ笑みを浮かべるクロエ。
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