物理系魔法少女、掴めないのなら追いかけろ

 「えっと、え?」


 シロエさんが混乱する中、俺も普通に混乱している。


 数秒経つと、影の中に入った俺の手は押し出されるように弾かれる。


 「整理いたしますわ。⋯⋯影の中に入れる訳ですの?」


 「分からんけど、一定時間なら入れそうだ」


 それは大きな収穫だろう。


 一発も殴れなかったシャドーメインを捕まえる可能性が出て来たのは。


 シロエさんがシャトーメインが出て来る場所をピタリと言い当て、俺がそこに向かって全力で向かう。


 当然、シャドーメインは逃げるように影に沈むが、それは想定通り。


 俺は迷いなく、シャドーメインが沈んだ影に向かって手を突っ込んだ。


 「来た!」


 「ほんとですの!」


 「あ、いや。勘違いだったわ」


 「なんですの!」


 俺は平謝りしながらシロエさんの隣に戻り、次に出て来る場所を待つ。


 さっきはちょっとだけシャドーメインに触れた気がする。


 後、もう少し速ければ捕まえる事はできるはずだ。


 「あそこですわ!」


 シロエさんが指を向けた瞬間にその場所に向かって走り、頭を少し出したタイミングを完璧に狙う。


 一回試したが、その場合は完全に出て来る前に引っ込む。


 だが、今回はその前の展開とは明らかに条件が違う。


 「クソっ!」


 だけと、あと少しで掴めなかった。


 掴んだと思ったら、しゅるっと抜けやがった。


 「次に備えますわよ」


 「⋯⋯ああ」


 流石に面倒になってきたな。


 たが、どうする?


 手を突っ込めても掴むまでには至らない。そうすると引きずり出す事も叶わない。


 俺はシロエさんの指を向ける動きに全神経を注いで、動いた瞬間に動ける様に準備をする。


 「あ⋯⋯」


 シロエさんが少し動き、指を向ける場所を予測して一瞬で向かう。


 「っちですわ!」


 「きゅーな方向転換!」


 九十度角度を変えて、一気に走る。


 出て来たシャドーメインはすぐに影に引っ込む。


 「手が入れるって事は全身を入るよなぁ!」


 「⋯⋯まさかアカツキさん! それは危険ですわ!」


 「危険なくして、探索者なんてできねぇよ!」


 俺は影の中に水泳選手のごとく、飛び込んだ。


 「アイキャン、スイミング!」


 影の中に呑み込まれる感覚、それを肉体的に感じるとは夢にも思ってなかった。


 水中にいるような感覚、息ができない。水中の中とは違い、影が絡みついてくるので動きにくい。


 周りの景色も当然見えないし、足場だってある訳じゃないし不安定だ。


 そんな自分の巣に飛び込んで来た人間をシャドーメインは餌として見るか、それとも敵として見るか。


 どっちにしろ敵意を見せると言うのなら、俺はそこに反応するだけだ。


 狙いは首後ろ当たりだろう。


 水中の中より動きにくいけど、それでも動けない訳じゃない。


 タイミングを感覚的に掴み、後ろに手を開いて伸ばす。


 引っ込めようとするのを肌で感じる。しかし、それを許さない。


 ガシッと掴んで、自分側に向かって強く引き寄せる。


 これなら回避できないだろう、その意味を込めて笑みを零す。


 握り拳を作り、シャドーメインに向かって⋯⋯突き出さなかった。


 今思ったんだが、こいつを倒しても大丈夫なのだろうか?


 そんな思考が頭中に過ぎると、動きは止まってしまう。


 その隙をシャドーメインは容赦なく襲いにかかる。


 凶悪な爪が俺に届くよりも前に決断を下した。


 ここでは倒さない。


 掴んだ腕を無理やり、力強く上に向かって放った。


 いくら動きが遅くなろうとも、パワーが普段よりも落ちようとも、シャドーメインと言う人型の軽量級の魔物なら外に飛ばせる。


 影の外に放り出したら、俺は水中を泳ぐように影の中を上る。


 「オラッ!」


 影から手を出して、地面に触れたと感じた瞬間に、手の力だけで飛び出す。


 シャドーメインに向かってまっすぐと突き進む俺は拳を固める。


 「くっそ面倒な相手をさせやがって!」


 今までコイツに使った時間の辛さと怒りを込めた、俺の拳。


 防いでも、攻撃特化のシャドーメインには防御しきれない。


 回避もお得意の影移動は影の無い状態では使えない。


 「これが詰みって奴だ!」


 シャドーメインは最期の苦し紛れの攻撃として、俺の拳に爪を合わせる。


 しかし、硬度が違う。


 爪を痛みもなく砕き、止まる事や減速する事はなく、奴の顔面に拳をねじ込んだ。


 「吹き飛べや、クソッタレが!」


 顔面にヒットした拳を力強く打ち抜く。


 砕け去ったシャドーメインの顔、最後に残るのはシャドーメインの魔石だけだ。


 「なんとか勝利」


 「良かったですわ」


 「出て来る場所が分かったのは助かったよ。魔石、どうする? どっちかが売って、後に折半するか?」


 「いいえ。わたくしはお金に困っておりませんもの。どうぞお受け取りください。それに、今回の勝利の過半数はアカツキさんの功績ですわよ」


 「そうかな? それじゃ、ありがたく貰っておくよ」


 テイム系のスキルを使って、魔物を利用して盗みを働いていた男はしっかりと、自衛隊に突き出した。


 後はギルド経由で警察に行くだろう。証言の方も録音しているしね。


 警察の方で色々な方法で聞き出して、証拠集めとかするだろう。


 ダンジョンの事件ってのは基本的に発見されない。今回は犯人が愚かだったのだ。


 「それでは、またいつか」


 「ああ」


 俺はシロエさんを送ってから、もう少し金稼ぎをしようとダンジョンに潜る。弁当も食べたいし。

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