物理系魔法少女、クソゲー版モグラ叩きの必勝法みっけた

 真っ黒の良く分からない魔物。


 「シャドーメイン⋯⋯にしてはとても魔力が濃い」


 シロエさんの呟きを聞いた。


 シャドーメインと言う魔物の特徴はやはり真っ黒な身体、だけど手から長く伸びる爪も特徴の一つだろう。


 あれに切り裂かれたらどれだけ痛いのだろうか、想像すると身震いしてしまう。


 シャドーメインが俺の腹を目掛けて爪を振るので、バットでそれを阻止する。


 流石に手で防ぐのは辛そうだしね。


 「だけど攻撃には使えるよな!」


 俺が拳を突き出すと、シャドーメインは自分の影に吸い込まれる様にして避けて、背後から現れる。


 背中を切り裂く攻撃をノールックでバットを挟んで防ぎ、反撃の肘を後ろに突き出すが、同じように回避される。


 「影移動の能力ですわ」


 「どうにかなりませんかね?」


 「わたくしの魔法だと逆に強化に繋がってしまいますわ。闇ですもの」


 まじかよ。


 ステッキを懐中電灯とかにして影を減らす⋯⋯それでも足下とかに影ができてしまったら意味は無いか。


 それに前方は照らせても背後には影がある。


 ステッキを手離す訳にもいかないので、光で照らして追い詰める作戦は無しだ。


 さーて、どうしたら良いかな?


 「おっと」


 シャドーメインは影の中を自由自在に移動して、俺の影からも現れる。


 なんとなく、音の使徒戦で現れた影の塊を思い出した。


 「ワンパターンめ」


 俺がシャドーメインに接近してバットを薙ぐと、影に入って攻撃を回避する。


 次に来るのは確実に背後、分かっているのなら対処はできる。


 俺はバットを両手で握り、半回転をかけて振るう。⋯⋯が、空振りして風圧で木を破壊した。


 「きゃっ」


 「シロエさん!」


 シロエさんのところにシャドーメインが行ったようであり、攻撃を皮一枚で回避していた。


 すぐさまシャドーメインに肉薄したが、攻撃が面白い様に当たらない。


 「クソゲー版のモグラ叩きかよ」


 「例えが分かりませんわ」


 しっかし、どうしたら良いんだよ。


 影の中を自由に動き回れるとかズルじゃんズル。


 俺が文句を心の中で言うと、再び外にシャトーメインが現れた。


 接近して攻撃したら、影の中に入られて意味は無い。ならば、こうする。


 俺はバットを一旦ステッキに戻してしまい、拳をその場で固める。


 「吹き飛べ!」


 俺は衝撃波でシャドーメインを倒そうとするが、攻撃が当たる前に、同様に影の中に入られて躱される。


 「ダメだったか」


 「当たり前ですわ!」


 頭をコツンと叩かれた。


 「どうしたら良いんだ?」


 「そうですわね。影を減らす⋯⋯とか?」


 「それならいけそうだ!」


 俺はステッキをバットにして、地面に向かって振りかぶる。


 「待ってくださいまし! それだと余計な魔物まで呼び寄せてしまいますわ!」


 シロエさんに止められたので、この案は不採用となった。


 シャドーメインは神出鬼没だが、出てから攻撃までの間にタイムラグが存在する。


 なので回避や防御は案外余裕である。


 だがしかし、それで有利かと言われたらそうでは無い。


 体力勝負なら自信はあるが、時間をかけると晩御飯に影響を及ぼす。


 それは今後の生活にも影響を及ぼすと言う事。


 早期解決でいつも通りの時間で帰るのが一番だ。


 「アイツの影に逃げる能力をどうにかしたいな」


 「こんな時、シルバーお姉様やミドリお姉様が居ると、楽なんですけどね」


 「なんか言ったか?」


 「何も言っておりませんわよ」


 何かを呟いた様に聞こえたが、気のせいだったのかもしれない。


 しかたない。ここは水中じゃないし、俺の得意分野で相手をしようか。


 「シロエさんはなるべく目立つところに立ってください」


 「はいですわ」


 次にシャドーメインが出て来た場所は正面でそこそこ距離はあった。


 俺の足が光る。


 「全力で追いかけて、当たるまで追い続けるのみ!」


 「作戦も何も無い、ただのゴリ押しですわね。嫌いではありませんわ!」


 「ありがとう!」


 俺はシャドーメインに向かって走るが、今まで以上のスピードだったからか、すぐに影に入った。


 次に出て来る場所を必死に探す。


 「⋯⋯わたくしの背後ですわ!」


 「りょーかい」


 その言葉を聞いて一瞬でシロエさんと距離を詰め、言葉通りに背後の影から出て来たシャドーメインをぶん殴る。


 空振りに終わったがな!


 「次はあの木付近の影ですわ!」


 「出る場所が分かるなら、最初から言って欲しかった!」


 「攻撃された時にマーキングを仕込んだのですわ!」


 出て来る場所はドンピシャ。


 後は、俺が拳をねじ込ませれば良い!


 「くっそ反応が速い!」


 「次はあそこですわ!」


 「絶対に殴ってやる!」


 俺は再び接近して、殴りを空振りに終わる。それを数時間繰り返した。


 「だああああああ!」


 「おー! 惜しいですわ! 多分60点くらい!」


 惜しさで点数を付け始めた。飽きているのだ。


 「もう、影に逃げんな!」


 イラつきのまま、影に入ったシャドーメインを追いかける様に、影の中に手を突っ込んだ。


 「地面の中に手を突っ込んでも変わりませんわよ」


 「あーいや。そうじゃないみたいだ」


 「え?」


 「なんか、影の中に入れてる」

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