物理系魔法少女、壁に八つ当たりした

 さーて、紗奈ちゃんの美味しい弁当を食べて気分転換しよう。


 あんなにトラップが張り巡らされていたのにも関わらず、ミミックって言う擬態の魔物、詐欺宝箱だった訳だが。


 普通にウザかったしガッカリしている。


 別にダメージは受けてないけどさ。やっぱり、心に来るモノがある。


 それに悲しい事はまだある。


 それは未だに俺が迷子状態って言う事だ。


 「壁を破壊して真っ直ぐ進んで来たから、破壊して真っ直ぐ進めば戻れるのでは?」


 『どこで殴ったか覚えているのか?』

 『動画を見返せよ』

 『それでも限界はあるってか、それで余計に迷子になるのでは?』


 『どのくらい進んだのか分からずに、進みすぎて結局迷子』

 『迷いの運命からは逃れられないのである』

 『悲しいなぁw』


 てこてこ歩いているが、一向に変わった景色が見えない。


 宝箱の鬱憤も溜まってるし、ここいらで発散するべきだろう。


 壁に向かって、拳を突き出して破壊する。


 「誰かと会えば、さすがに道は聞けるよな」


 『こんな初歩的なミスは基本しない』

 『この子、これでもレベル4なんです』

 『高い方なんですよ。なのに成長が分からない』


 壁を破壊しながら雑に進んでいると、広い空間に到着した。


 「ついにボーナスエリアが⋯⋯」


 喜んだのもつかの間、中に入ると周囲に大量の魔法陣が浮かぶ。


 そこからゆっくりと出て来るのはミノタウロスとオルトロスと言う狼の頭が二つ同じ身体にあり、尻尾が蛇の魔物である。


 その数は数えるのが億劫と言うよりも、数えたくないので数えない。


 だいたいさ。


 ミミックに当たって、適当に進んでいたらモンスターハウスってどう言う事よ?


 泣くよ? 泣いちゃうよ?


 「はぁ。ストレス発散じゃボケェ!」


 俺は地面を蹴って急加速し、数体のミノタウロスを同時に壁にめり込ませるキックを決めた。


 壁に突き刺さったミノタウロス達はその一撃で息絶え、魔石も残さずに消える。


 モンスターハウスのダメな点、ドロップアイテムが無い事だ。


 一銭にもならないが、動画のネタと集団戦の経験が積める。


 配信者としてはありがたいが、かなり危険で旨みも無いので探索者からは不人気である。


 「オラッ!」


 正直、今の俺の力ならダイヤすら砕きそうなミノタウロスの力よりも上なので余裕である。


 オルトロスの方は違う属性の魔法を同時にブレスとして放って来るのが厄介だが、それも避けれない程じゃない。


 オルトロスの魔法なら、アオイさんの方がよっぽど脅威だ。


 「シャラ!」


 頭を一つ蹴り飛ばすと、すかさずもう片方の頭が噛みつきに来る。


 後ろに一瞬で移動して躱すと、蛇の口から毒霧が放たれる。


 「ステッキ!」


 ステッキを普段使われるような通常サイズのうちわにして、毒霧を吹き飛ばす。


 そのままうちわを縦にして、蛇の頭に叩き落とした。


 かなりの速度だが、切断できるなんて事はなく、強い衝突音と共に骨が砕かれるような音が鼓膜を揺らした。


 「これって全部の頭を倒さないと倒せないのかな?」


 振り向いて来たので、残った頭に向かってうちわを投擲して倒した。


 もしかしたら全てが繋がってる胴体を破壊したら、一撃で倒せるのかもしれない。


 「ぐおおおおおお!」


 真上から振り下ろされる石斧を裏拳で破壊し、回転を乗せた踵蹴りでぶっ飛ばす。


 『強いんだけど』

 『アカツキちゃんは通常の探索者よりも強いです』

 『だけどまだ雑いところがある』


 『技術だけならアカツキちゃんよりも上の人たくさんいるよ』

 『技術なんてパワーでどうにかなるから』

 『それを証明する魔法少女(物理)だからね』


 迫り来る魔物を殴り倒し、時には自ら倒しに向かったりする。


 だけど効率が悪いと気づいた。


 なので、ゆっくりめに走り回って皆が追い掛けて来るのを待ったりする。


 『何を始めた?』

 『案外分かりやすいだろ』

 『一つ一つ倒す必要なんてないよな』


 俺はある程度追い掛けて来る奴らが溜まったところで、ジャンプして天井に向かう。


 クルッと回転して天井に足を突っ込み、埋めて停止する。


 俺を攻撃しようと下には魔物の群れができあがる。


 「いくぜ」


 『来ました!』

 『待ってた!』

 『十八番だな!』


 「必殺マジカルシリーズ」


 俺の拳が強い光を放つ。ちなみにこれは演出である。


 全力で何かすると神器が力を発動しようとする。だが、エネルギーが足らずに光るだけって言うしょぼい状態。


 「本気殴りマジカルパンチ


 俺が全力で放った拳は大量にいた魔物の中心に降り注いだ。


 近くに居た奴らは潰れ、少し離れた奴らは衝撃波で壁に激突して倒れる。


 次々に粒子となって消えていく魔物を他所に地面に亀裂が入り広がっていく。


 すごーく嫌な予感がするので、天井を歩いて通路に戻る。


 俺の嫌な感じは的中して、広い空間には下の階層に繋がる風穴ができあがった。


 再生には時間がかかりそうだ。


 「魔物って登って来ないよね?」


 『知らね』

 『こんな事初めてやわ』

 『でも、ダンジョンって放置したら魔物が外に出るんだよね? つまり⋯⋯』


 登って来る可能はありそうだな。


 責任もあるし、魔物が来そうなら落とす為に再生が終わるまでここで待機しよう。


 この衝撃で下の人達に迷惑がなければ良いけど。レベル5の探索者ならすぐに異変に気づいて、回避すると思うし潰した心配はない。


 はぁ、退屈だ。


 さっきの音で気になった人が来てくれると信じている。迷子は継続中だ。

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