物理系魔法少女、回復薬は回復する為の薬と知っていた

 『左!』

 『空気を読んで右!』

 『普通にまっすぐ!』


 ホログラム映像として映し出されるコメントに俺は苦笑いを浮かべる。


 コメント欄に従って迷宮を進むって言うのをやって、人と会う事を祈っている。


 既に地図は役に立たない道具と成り果てているし、これなら紗奈ちゃんへの許しも得やすいと思ったからだ。


 残業でもしかたないのだ。そう言う企画なのである。


 コメント欄が暴走しているので、ステッキを中心に立てて、倒れた方向に進む。


 進行方向は右斜めだ。


 「それじゃ、右斜めに行きますか」


 『やった採用された!』

 『くっそ! ステッキ様にもっと媚びを売らなくては!』

 『ちくしょうめえええ!』


 ちなみに進行方向に道なんてのはない。


 前も左右も壁の行き止まりである。


 道がないなら作れば良い、とても単純で簡単な論理だ。


 「右斜めを狙って、パンチ!」


 右斜めを砕いて進み、道が現れたら再びコメントを確認して、最初に見えた方向に進む。


 壁があろうとお構い無しにしてくるので、殴って進んでいる。


 これじゃ安価の迷宮攻略だ。


 『うーん。殴る』

 『背負い投げでいこうぜ?』

 『ステッキを石にして投げる』


 などなど、宝箱に対するコメントが投げられる。


 ここで俺は疑問に思った。『普通に開ける』と言う選択肢が無い。


 「おいおい視聴者達よ。確かに、さっきまで三連続でミミックだったさ。だがな。仏の顔も三度まで、つまりは次こそちゃんとした宝箱なのだよ!」


 『ご都合解釈乙w』

 『仏はニコニコ眺めてるよw』

 『仏様の力すら凌駕してしまうアカツキさんチッスチッス』


 俺が宝箱に近づくと、その箱から手足が生えて、武器を装備して、目が現れて走って来る。


 今回は宝箱その物に変身したミミックのようだ。


 「クソッタレがあああ!」


 怒りのままにステッキを投げると、綺麗に跳ね返り俺に命中した。


 怒りのままにぶん投げたステッキの攻撃力は高く、めちゃくちゃ痛かった。


 「物理攻撃をそのまま反射するのは良くない」


 『アカツキの天敵か?』

 『これってどうやって倒すの?』

 『ピンチか?』


 「こう言う時の対処法は、既に知っている」


 まずは武器を軽く破壊して。背後に回って持ち上げる。


 ジャンプする。


 「物理攻撃は直接しなければ、反射されない!」


 回転して地面に向かってぶん投げて、倒した。


 亀との戦いで学んだ事である。


 物理攻撃を反射してくる酷い奴らは間接的に倒す。


 『そんな方法があったのか!』

 『狭い空間だとこれが一番なのかな?』

 『安全性を考えて奥にぶん投げるのが良かったのでは?』


 『重力もしっかり計算に入れているんだね』

 『地面が崩れますよー』

 『戻るなよ?』


 奥の壁を破壊して先に進む事にする。


 それから安価でのルート選択は進んで、魔物も倒しまくって、探索者用のリュックの大容量も限界に達していた。


 今回は十万近くの収入を確実に得る事ができているだろう。


 さらに配信の広告と投げ銭による金銭が約束されている。


 探索者としても配信者としてもウマウマである。


 問題はそうだな。地理を把握できるような優秀なスキルを持った人が欲しい。


 誰か、俺をここから帰してくれ。


 既に午後の三時。そろそろ帰らないといけない時間帯である。


 五時までには終わりたいぞ。


 「そろそろ誰かと会っても良いと思うんだけどな」


 そう思い、決めた時間内で多くのコメントを得た右側に進むため、壁をこれまたコメントで要望された頭突きで突破する。


 すると、壁の反対側に居たのであろうミノタウロスが目に入った。


 正直もう、倒す必要が無いのである。


 なので、軽くあしらうつもりで腹にキックを入れる。


 今までのミノタウロスと違って、防御姿勢には入ったが、その程度で俺のパワーは止められない。


 だけど耐えられたので、ステッキを強めに脳天に投げてヒットさせ、絶命させた。


 またコメントで次の方向を決めようと思った矢先、声がかけられる。


 そこには四人そこらのパーティが満身創痍の様子で座っていた。


 ミノタウロスとの戦いでかなり疲弊したようだ。血も流してるし。


 「ってこれ、他人の魔物を横取りしたんじゃん! えっと、魔石はいただきませんので⋯⋯」


 「ありがとう、ございます。助かりました」


 結構弱っている。


 『助ける』

 『魔法少女として挨拶をしてから助ける』

 『イキりを決めてから助ける』


 助ける以外の選択肢はない。だって道聞きたいし。


 だが、そのためのアクセントがどんどんとコメントで流れて来る。


 それらをフル無視して、俺はパーティメンバーのところに近寄って、壁際にゆっくりと寄せていく。


 回復するのを待ってからにしよう。


 「も、申し訳、ありませんが、ポーションを」


 「中級のなら持ってるけど、何に使うんですか? この辺にアンデッドはいませんが?」


 「えっと、回復に?」


 ⋯⋯あ、そうか。


 そりゃあそうだ。


 うん。知ってたし。


 常識的な使い方を忘れていたとか、そんなの全くなかったし!


 だからコメント欄で煽んな! 笑うな! ネタにするな!


 ドローンに搭載されているAIもそのコメントを映像にするな! 止まって一定時間経ったら映す設定にしてたの俺だった!


 出したい本音を呑み込んで、俺はリュックからポーションを取り出して、皆にかけていく。


 後は回復待ちだ。

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