物理系魔法少女、たとえ火の中水の中走り抜ける
時々暴走する妖精を落ち着かせたり、迫り来る魔物を蹴り飛ばして、幻の精霊が案内してくれる場所に向かって走っている。
今回の調査対象が近くにいるのか、進むに連れて木の葉が枯れ始めている。
今俺達が走っている場所なんか、既に葉っぱすらなくなってしまった。
徐々に枯れ木が続く。
「こんなに森が荒らされて⋯⋯許せんのじゃ」
「そうだな。一体誰がこんな事してんのやら」
枯れ木が無くなると、周囲は火の海に包まれていた。
調査対象は火の魔法でも扱うのだろう。森が火に包まれている。
「憎悪の炎じゃの。禍々しいのじゃ」
「魔法に込められた意思まで分かんの?」
「精霊じゃからな」
そして、俺達は中心に辿り着いた。
紫色の炎の塊で、中は見えない。
今回の調査対象はあの炎なのだろう。
「色々と調べたら、ギルドに報告書を提出する⋯⋯」
「そゆな悠長な事をしている場合じゃないのじゃ! その間にどれだけ森が破壊されるのか、分からんのか!」
「だったらアレを精霊達で足止めしてくれよ」
「無理じゃ! わらわ意外の精霊は忙しいのじゃ! 現在進行形でわらわも忙しいのじゃ!」
だったら、その仕事が変わるだけだな。
報告以外の事をして時間を浪費してしまったら、紗奈ちゃんが怒りそうで嫌だけどな。
これも幻の精霊に恩義を売るって事で、少しばかり頑張りますか。
俺は精霊を下ろして、紫炎の塊に向かって突き進む。
「これ以上森を破壊させないのじゃ。お主に向いておるぞ」
森の風景がガラリと変わって、街中のようになる。
立ち並ぶビル。
「さらに、受け取るのじゃ!」
俺の手に幻術で創られた剣が現れて、具現化しているので掴む。
「おらっ!」
放たれる魔法をその剣でぶった斬ると、魔法と剣は同時に消える。
幻術の剣であっても、力任せに使うとすぐに壊れるらしい。
「水の幻術じゃ」
まるで津波、そのような幻術が具現化して紫炎に迫る。
だが、その炎はさらなる強さを見せて水を蒸発させる。
「幻術を具現化するって、思っていた以上にチートだな。他の精霊が泣いてるぞ」
「威力は格段に落ちる、結局根本は幻じゃからの。それより気を引き締めい」
「分かってる!」
俺はスタートを切る。
ビルを足場にして上から紫炎に接近して、ステッキを祭りなどで見られる、大きなうちわにする。
ビルを蹴り飛ばして加速する。
「吹き飛べや!」
全力で振るったうちわから発せられる風は紫炎の中心をがらんと開ける。
だが、それでも本体には届かなかった。
「もっと近づくべきだったか」
ステッキを足場にして、精霊の方にジャンプして戻る。
戻れと心の中で命じれば、ステッキはしっかりと戻ってくれる。
「これなら、どうだ!」
ステッキを全力で振りかぶり、中心と思われる場所に向かって全力で投げる。
それを危険と察知したのか、炎が壁のようにステッキの前に出現する。
だがな、その程度じゃ俺のステッキは止まらない!
「なにっ!」
「どうした!」
精霊が驚いたので、俺も驚きのままに叫んでしまった。
「あの壁は受け止めるだけではないぞ。イソギンチャクのようにうねうねしたモノがステッキのスピードを落としておる!」
「そんな事が可能なのか?」
「ここまで繊細に魔法を操れるとは⋯⋯火の精霊でも無理じゃ」
魔法などに精通している精霊よりも制御が上って、まじで誰なんだよ。
だけど、こんな事しているんだ、まともな訳がない。
「怒りの悪魔かっ」
「ん?」
精霊が変な事を口にした。
ステッキはもう進めないくらいにスピードが落ちたので手に戻す。
しかし、投げた勢いのまま戻って来て、手に強い衝撃が加わった。
「いて。⋯⋯それで怒りの悪魔って?」
紫炎の球体が高速で放たれるので、ステッキを盾のようにして防ぐ。
重要そうな事なので聞いておきたい。
「観察して分かったのじゃが、怒りの悪魔が関わっているのな。無理に怒りの感情を出して、それを増幅させ、怒りを魔力なのどのエネルギーに変えておるのじゃ」
「なんて迷惑な」
「そうじゃな。付け入る隙がある人間を選んだのじゃろう。それがここまでの力を出すとは⋯⋯本当に迷惑じゃ」
しっかし、悪魔の力ね。
こんな事されると戦争を起こそうとしている、これが事実のように思えてしまうな。
わざわざ人を使って、中立の精霊達がいるこのダンジョンを荒らすか?
「だいたいなんでここだよ」
「少しでも本当の怒りがある場所なんじゃろ。精霊と契約する事を拒否された人間、なんじゃろうな」
俺が知っている人は二人だけだ。
だけど他にもいるだろう⋯⋯多分。
もしもその二人だけしかいないとなると、あの中身は⋯⋯。
いや。ないだろ。さすがにない。
あの人はこんな事をするような人じゃないって、数回会ったり探索した程度でも分かる。
それじゃ本心までは分からないけどさ。
「落ち着け俺」
怒りの悪魔が利用するために『怒り』の感情を増幅させた可能性が高いんだ。
つまりはアレは魔物や妖精のような暴走状態。
それにまだ、中身があの人と決まった訳じゃない。
「俺に水をかけてくれ」
「分かったのじゃ」
冷水を頭から浴びた。
冷たい身体のまま俺は、炎の中に突っ込む。
放たれる魔法は全て拳で砕く。とにかく中心に潜り込む。
息を吸えば肺が焼けるように熱くなる。肉体を溶かそうとする熱気が俺を包み込む。
それでも俺は、足を止めない。
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