物理系魔法少女、根拠なんていらない

 「熱いな!」


 炎の中を突き進んでいるのでしかたないのだが、やはり熱い。


 中心と思われる場所に近づく度に、俺を追い出そうとする炎の勢いは増す。


 暴走しているのに、俺を殺そうとしているようには感じない。魔法少女なきゃ死んでる。


 憎悪の炎だと精霊は話してくれたが、怒りとはまた違う感じの炎だと俺は思う。


 根拠とか、そんな論理的なモノはない。


 あくまで俺が直感で感じた、感情的な感想だ。


 憎悪や怒りなどではなく、拒絶。


 俺に辿り着いて欲しくない、来て欲しくないと言う、拒絶の気持ち。


 「見えたぞ」


 気合いで中心へと到着する。


 そこに居るのは、予測していたけど当たって欲しくなかった相手であった。


 「アオイさん⋯⋯」


 彼女ならば話はすぐにまとまる。


 怒りの悪魔、こいつが全て悪い。


 彼女は確かに、精霊から拒絶されていた。そこに小さな怒りを覚えた可能性はある。


 だけど、森を破壊しようと考えるほど彼女は精霊を憎んでない。


 根が優しい子なんだよ。挨拶と同時に攻撃して来たファーストコンタクトだったけど、彼女と探索してコラボ配信して、それで少しは知ったつもりだ。


 こんな事をする子じゃない。


 怒りの悪魔が関わっているのなら、原因はソイツだ。


 「そろそろ危険じゃ!」


 風の手によって俺は炎の外へと引っ張られた。そして回復の魔法を使ってくれる。


 「幻術じゃないのか?」


 「身体を再生させる幻覚、癒しを与える幻覚、その嘘を真に返せば良いのじゃ」


 「ほんと、チートだ」


 世界の魔術師は全員幻術を極めてみたらどうだろうか?


 とりあえず、中心に誰がいて犯人は誰なのか、それは分かった。


 まずはアオイさんを暴走状態から戻す方が先決だ。


 「なにか手はあるか? あの中の人を助けたい」


 「良かろう。だが、まずは邪魔な炎を消さなくてならんの」


 「そりゃあ、難しいな」


 俺はアカツキの姿になる。


 すると、炎が一瞬だけ反応したように見えた。


 「まずは引っ張り出したら、あっさり戻るんじゃないか作戦!」


 「はあ?」


 俺はダッシュする。


 当然向かうのは中心だ。


 「クルナアアアア!」


 少しは自我を取り戻したのか、何も喋らなかったさっきとは違って、言葉を出した。


 それも断末魔のような叫びだけど。


 向けられる炎。


 「形が無いと俺は触れない⋯⋯だがな、吹き飛ばす事はできるよなぁ!」


 俺はステッキをバットにして、地面に向かって強く振りかぶった。


 光を放ったので、これが俺の全力となる。


 地面を砕き、その衝撃はアオイさんの紫炎を俺に通さない。


 「オラッ! 目を覚ませ!」


 横スイングで生み出した衝撃波で少しでも炎を散らす。


 少しでも散らしたら、冷水をかけてもらい炎の中を突き進む。


 燃えたぎる紫色の炎が視界の全てを奪う。


 「だがな。関係ないんだよ!」


 やると決めたなら、最後までやり通せ!


 肺が焼き切れそうな状態で強くバットを握る。


 地面に向かって振り下ろし、周囲の炎を一気に散らす。


 偶然にも場所と衝撃波が完璧だったのか、アオイさんの姿がくっきりと見えた。


 青色だった魔法少女の衣装が紫色になっており、髪の色も同様だった。


 「アオイさんは蒼色が一番似合うんだよ。ミズノだって、そう思うぞ!」


 違うな。あの人はどんなアオイさんでも絶対に受け入れてしまう。


 「ダマレエエエ」


 炎がアオイさんを包み込む前に、突進する。


 捕まえて、そのまま炎の外まで走る。


 炎は消えたが、暴走は収まってなさそうだ。


 「こりゃ失敗だな」


 「ジャマダアアアア!」


 腹にゼロ距離で放たれる爆炎が腹を焦がす。


 「ゴホゴホ。痛いなぁ」


 アオイさんの全身から炎が出て、羽衣のようなモノを構築する。


 「引きこもりはやめて、攻めに転じると言ったところか」


 「これ、余計に森が壊れんか?」


 「大丈夫じゃないかな?」


 「なるほどかなりやばいのじゃ」


 「なんでだよ!」


 俺は大丈夫だって言ったのに!


 「お主は適当じゃからな。それに、最悪のケースは想定しておく、あたりまえじゃろ」


 ド正論でぶん殴られたので、ステッキをしまって拳を構える。


 「なぜ武器を下げる?」


 「こっちの方がやりやすいから」


 ステッキを持つだけで俺のスピードは微々たる差だけど落ちる。


 手に持っているのと、しまっているのとでは話が変わるのだ。


 アオイさんに向かって行こうとしたら、自分を守る要塞を形成し始める。


 「おっと! それは勘弁してくれよ!」


 接近して殴り壊すが、すぐに再生される。


 「お主、それはダミーじゃ! 本体は泉の方に移動しておる!」


 「このビルの幻術、意味ねぇ」


 「うるさいのじゃ! わらわを置いてさっさと行くのじゃ!」


 「言われんでも!」


 俺が指を向けられた方向に向かって全力で走る。


 足から目を瞑りたくなる激しい光が継続して出てくるが、お構い無しだ。


 炎を使って高速移動するアオイさんを発見した。


 「悪いけど、使わせて貰うぞ」


 俺は地面を抉り飛ばすように蹴った。


 地面の破片はアオイさんに的中する前に炎よって灰になる。


 止まって、俺の方を見る。


 「さぁ、闘おうぜ!」


 「逃げ⋯⋯ジャマ」


 俺の周囲が紫炎に包まれた。


 上や左右、様々なところに巨大な火球ができあがる。


 確実に狙われていたのだろう。罠だ。


 「ちぃ」


 ダメージを覚悟して進もうと決意すると、ヒューっと風の音が耳を掠めた。

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