物理系魔法少女、似合わない調査をする\(^ω^)/

 今日も紗奈ちゃんとダンジョン前の雑談をしていると、かなり軽かった受付嬢の人が肩をつんつんする。


 「どうしたの?」


 「紗奈ちゃん、支部長が呼んでる」


 「⋯⋯後回しに」


 「できないから」


 紗奈ちゃんは俺に主と離れる子犬のような目を向けてから、支部長室へと向かって行く。


 「俺は行った事のあるダンジョンにでも行こうかな」


 ステータスカードと荷物は受け取っているので、俺もそのままダンジョンに行こうかなと思う。


 今まで行った事あるダンジョンでレアドロップを狙おう。


 今はドローンカメラの悲しみがあるので、ジャイアントフォレストには行きたくない。


 いっそ、推奨レベルの低いダンジョンを観光するか?


 「すみませんすみません」


 さっきの受付嬢さんが俺に話しかける。


 「はい?」


 「紗奈ちゃんに行ってきます言ってないのに、そのままダンジョン行くつもりっすか?」


 まるで友達にでも話しかけるかのようなフレンドリーな姿勢。


 別に俺はそれで何かを思う事は無い。


 「それもそうだね」


 紗奈ちゃんの拗ねる顔は可愛いけど、行き過ぎると軽く怒ってしまう。


 俺の胃袋が喜ぶか悲しむかは全て紗奈ちゃんの意思次第なのだ。


 この受付嬢さんが言う通り、待つ事にした。


 それから数十分くらいで紗奈ちゃんは戻って来て、俺を呼び出した。


 「どうしたの?」


 「精霊の森で何かが暴れているらしくて、星夜さんに調査して欲しいんだって」


 「なぜ俺?」


 「推奨レベルに合っていて、ソロで、ステータスの評価が高いからだってさ」


 ふむ。


 あそこには悪魔について話を聞いた事がある。


 それを聞いても俺が何かをした事はないのだが、いつか天使についても聞こうと思っていた。


 ちょうど良いタイミングか。


 調査して、後日話を聞きにもう一度訪れようか。神器とやらも知っているかもしれない。


 「分かった。行ってくるよ」


 「うん。気をつけてね。もしもの時は逃げて」


 俺はダンジョンに入る。


 暴れていると言っても、入った時に目に入る風景には何も変わりは無く、平和なモノだった。


 姿はアルファの状態なので、そのままで行こうと思う。


 俺が移動すると、幻の精霊が焦った様子で俺の隣に姿を出した。


 「お主来てくれよったか!」


 「焦っているって事は、結構やばい?」


 「やばいやばい。色んな精霊があちこちに散らばって対処しておる。主はわらわに付いて来るのじゃ」


 俺は幻の精霊の後をダッシュで追いかけたが、いつの間にか追い抜かしていた。


 地面にしっかりと足跡がある。


 「主、何たるスピードじゃ。全速力じゃぞ⋯⋯わらわを背負え! 案内はするからの。その方が速いのじゃ」


 俺はしかたないので、幻の精霊をおんぶして走り出す。


 指を向けられた方向に向かって駆け抜ける。


 目の前に目を赤く輝かせるゴリラが姿を現す。俺を発見するやいなや、向かって来る。


 手を使った四速の走りは速く、まるで車が迫って来るかのようだった。


 地面を踏みしめる重圧感がプレッシャーを与える。


 「だけど、今の俺だったら余裕だ!」


 前だったらステッキを使って倒すしかなかった。


 だが、今の俺なら蹴りだけでも暴走したゴリラを十分に倒せる。


 ただ、思ったよりも脆かった。


 「今回は濃度の高い魔力による暴走じゃ。精霊進化とは毛色が違うのじゃ。暴走はしておるが強さに違いはある。前の方が強いじゃろ」


 「なるほどね。じゃあ、気兼ね無く進める訳かっ! 歯を食いしばれよ。舌噛むからな!」


 俺は再び、本気で走り始める。


 本気を出すと神器(笑)が発動して、足から光が出る。


 「なんじゃ! この神々しい光は!」


 「ただの演出」


 「なぬ?!」


 「ちくしょう。なんでただの演出なんだ!」


 ちょっとした怒りでさらにスピードが上がった。


 しかし、急に幻の精霊の顔が悪くなる。


 「しゃがめ!」


 「ほい!」


 おんぶしているのに咄嗟にはしゃがめないので、ジャンプした。


 すると、俺の下を激しい流水が通る。


 「なんあれ?」


 「妖精の魔法じゃ。濃度の高い魔力は、妖精を暴走させるのじゃ。酒に酔う人間と一緒じゃ。妖精を傷つけると他の精霊に嫌われるのじゃ。気をつけて制圧するのじゃ」


 「逃げちゃダメ?」


 「妖精を掴めるお主だからできる事なのじゃ! 魔力を安定させれば収まる! それはわらわができるのじゃ! 頼む!」


 「分かった。お前に恩義を売るのも良さそうだ」


 俺は魔法が放たれた方向に向かって一気に進む。


 途中で邪魔になると思ったのか、幻の精霊は消えていた。


 目に入ったのは、禍々しいオーラをまとった妖精である。


 俺に向かって、再び水の魔法を使う。


 今度は貫通力を上げるためか、ドリルの様な魔法だった。


 しかし、円錐の形をしている。ならば!


 「ドリルなんざ、止めてやる!」


 回転している水を両手で挟み込み、無理やり止めに入る。


 ジリジリと手の平を削る魔法に、それでも力を加えて停止させた。


 暴走状態でも驚いた妖精。俺は当たらないギリギリを狙って魔法を投げ返した。


 木を貫通させる。


 「はい。捕まえた」


 それに驚愕した一瞬の隙を狙って、捕まえる事に成功した。


 幻の精霊が来たので渡すと、抱きしめる。


 ゆっくりと優しい光の魔力が妖精を包み込み、禍々しいオーラは消えていく。


 安らかな顔になった妖精を静かに木に預ける。


 「さぁ、元凶の所に行くのじゃ」


 「おうよ!」

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