物理系魔法少女、技術<力

 SNSで何とか問題ない事を伝えて、ブライベートへと移行する。


 まだ一回しか使った事のなかったドローンがぶっ壊れたので、精神的ダメージはかなり大きい。


 チョップの衝撃波で吹き飛ばされ、木に激突して粉砕⋯⋯見にくくなるけど、距離設定変えておけば良かった。


 「ショックだ」


 アカツキを狙って来る人を考えて、念の為にアルファの見た目になっておく。


 パーカーなので、ダンジョンの中だとこれでも普通に目立つ。


 かと言って、鎧の姿になる気はない。


 動きにくくなるし、装備した時の見た目は良く分からないので変身が普通にできない。


 巨人の心臓を手に入れるべく、巨人を殴り倒していく。


 「本気殴りをする度に眩しくなるのか。厄介だな」


 目を閉じてしまう。しかも、意識してないと力を緩めてしまう。


 何かを本気でやりにくくなる。邪魔くさいシステムだ。


 そろそろ帰る時間、と言うところまで数体の巨人を倒して、魔石を回収した。


 だけど、レアドロップとかは無くて悲しくも平和なダンジョン探索になった。


 「頼むから損害はなくなってくれ。マイナスはやめてくれ」


 そう願ってゲートに向かうと、正面に三人の人影が見える。


 すれ違うのは面倒だと考えて、木をグルリと回って回避しようとした⋯⋯のだが目の前に来ていた。


 同じ考えだったか。


 「こ、こんにちは」


 俺が挨拶すると、真ん中にいるちっこい女性がふんっと鼻息荒く俺を睨んで来る。


 「神器は己を滅ぼす、回収するから寄越せ」


 そういきなり言って来て、手を伸ばして来る。


 神器?


 「知らない顔をしてもムダぞ!」


 「神器ってなんですか?」


 「シラを切るのか。しかたあるまい一号、二号!」


 両サイドの人が前に出る。俺から見て左側の人が鼻をスンスンしている。


 「おや?」


 俺はその人に見覚えがあった。


 前にスーパーで卵を譲った、表情や声が無機質な女性だったのだ。


 まさかの再会に俺はめんどくせぇと思うが、今の俺は女性なのでバレる事はないだろう。


 「最悪命は問わん! とにかく神器を回収する! 二人とも、行け!」


 「主人の命令です。すみませんが、大人しくしてください」


 メイド服に刀と言うシュールな彼女は俺に真っ直ぐな目を向けて、距離を一瞬でゼロにして来る。


 容赦なく首に刀を突き立てられた。ギリギリで右手で掴む。


 砕こうと思ったのだが、一向に壊れる気配がしない。


 「そんじゃ、オレも行くかな」


 赤褐色の髪をした忍者っぽい男が双剣で俺の背中を斬ろうと背後に移動して来る。


 瞬時に反応して跳躍し、それを回避して反撃に回転をかけて蹴りを飛ばす。


 だが、俺が蹴ったのは木の一部だった。


 「忍法、変わり身の術⋯⋯的な?」


 「⋯⋯ちょっとイイな」


 「どーも」


 褒めたのに手加減はなく、二人は俺に迫って来る。


 二人ともその顔に感情と言うのは見えず、ロボットのように無機質だ。


 殺意とかも何も感じない。


 いや、むしろ俺はいつから殺意とかあいまいなモノを感じ取れるようになった?


 そんなスキルは無いし、レベルアップの影響か?


 「本当に神器なんて知らないんだよ。それなのに攻撃するなって」


 「そんなのは信じんぞ! 神器を悪用する気ぞ! 今までどれだけ騙されてきたと思ってる!」


 「ちょ、おまっ。何も知らない人間を自分の中の知識だけで決めつけるんじゃない!」


 誰だよそんな嘘つきどもは!


 俺の話は聞いてくれないようで、メイドと忍者と言う不思議なコンビの相手をする事になった。


 「火遁!」


 「おお! 口から火を出せるのか!」


 形は無さそうだったので避ける。


 その避けた先にメイドが割り込んで来て、刀を抜刀する。


 鞘で溜め込んだ力で放たれる斬撃のスピードは風のように速い。


 「とっ」


 「一号何やってんだよ」


 「きちんと狙ってますよ。ただ躱されたんですよ。てめぇと同類」


 メイドさんは一号で忍者くんは二号っぽいな。


 さて、身に覚えのない情報で攻撃されるので本当はあまり手荒い事はしたくない。


 だけど、やらないといけないっぽいな。


 「そんじゃ、こっちもそろそろ反撃するかな」


 「その方が良いかと」


 「オレらもその方が罪悪感無くて良いな。できればさっさと詳細を話して神器をくれないか? あまりコロシはしたくねぇ」


 だったらその刃をしまって、ちゃんと話し合いたいと思うのだが⋯⋯あのロリっ子がそれを許さないんだろうな。


 なんて従順なんだ。


 一号が花のように美しい斬撃を俺に浴びせる。対して俺はバットで応戦する。


 「ムッ。この太刀筋も見破られるとは⋯⋯少し悔しいですね」


 本当にそう思ってますか? 目を少しも歪ませる事無くまばたきさえもしてないのに?


 納刀して、抜刀術の構えを取る。


 目にも止まらぬ速さの斬撃が放たれるが、バットで弾く。


 「これも⋯⋯」


 左の拳を固めて、一号さんに軽く突き出す。


 そのパンチは拳が触れてなくとも衝撃波だけでかなりのダメージを与える。


 「ぐっ」


 「一号! 何をした⋯⋯それが神器の力か?」


 「神器ってか、ステータスの力な気がする」


 「ふむ。ならばこう行こうか」


 二号くんが分身して五人くらいになり、さらに姿を消した。


 刹那、俺を囲むように五人の二号くんが出現して双剣を構えて来る。


 「そらっ!」


 俺は地面を強く踏み、その衝撃波と地面の破片で二号くん達を吹き飛ばす。


 それで分身が消えたのか、一体になった二号くんに一瞬で近づいた。


 「オレよか速いか」


 「スピードはそっちの方が上じゃない? ただ、パワーが足らんよ」


 バットを振り下ろした。


 しかし、片手で振るったバットを刀で一号さんが防いで来た。


 金属音が鼓膜を揺らす。


 「オラッ!」


 その状態で強引に振り抜いたら、受け流されて回避された。


 技術で圧倒的な敗北⋯⋯しかたないか。俺、バットの見た目したステッキだし。


 「土遁!」


 俺の足場が沼のようになって沈み、地面が棘となって貫こうと迫って来る。


 「飛来剣!」


 さらに一号さんの斬撃が飛んで来る。


 訳の分からぬまま殺されるなんて、絶対に嫌だ。


 二号くんに言おう。俺と戦うなら全身をどうにかしないとダメなんだよ。


 俺のパワーはどんな状況でも出せるんだ。


 「オラッ!」


 バットを両手で強く握って、振るって出る衝撃波で忍術と飛来してきた斬撃を破壊する。


 「まじか」


 「凄いですね。このパワーは魔力とかでは無さそう」


 驚いているようだが、そうは見えない。

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