物理系魔法少女、ステッキは時に主を攻撃する
「それで、今日はどこのダンジョンに行くの?」
「あー。レベル4のダンジョンって基本行かないし、オススメ無い?」
ステータスカードを渡してもらう。
疑われないためにもいつも通りの形式を取らないといけない。
アカツキとしてではなく、純粋な不正を疑われないためだ。ステータスカードはギルド管理。
ん? 紙が一緒に与えられた。
『いつ婚姻届出しに行くの?』
⋯⋯ん?
出しに行く⋯⋯その前に受け取りに行くと言う工程があるのだが、その辺はどう考えているのだろうか?
と、いかん。
今は紗奈ちゃんのオススメダンジョンを聞かないとな。
「来週辺りに両親への挨拶を⋯⋯」
「紗奈ちゃんせめて仕事はしよう」
「⋯⋯来週辺りどうかな?」
「その一瞬の思考の後で仕事をしない選択肢ってありかよ!」
紗奈ちゃんがオススメしてくれたダンジョンは『ダークフォレスト』と言う普通な名前のダンジョンだった。
その辺のネーミングだとレベル2が妥当な気がする。
「魔物は闇系の魔法を良く使って来るね。名前の通り暗いから、見えずらいかな?」
「まぁその辺は、一度受けてから反撃すれば良い」
「それを許す妻が居ると?」
紗奈ちゃんの殺気が怖いので神経を集中して必ず攻撃を躱そうと決めた。
かなりの金額が入ると確定しているので、今日は奮発して中級のポーションを買おうと思う。カメラも買い直す。
「やっぱ回復薬あると良いよなぁ」
「確かに、ヒーラーが居ないと辛いもんな」
「いや、アンデッド対策に⋯⋯」
田中君がナチュラルに俺の横に立っていた。
そのせいで反応が遅れ、跳び退くタイミングを逃した。
「なんで僕の名前を⋯⋯それよりも、さっき、神楽さんと、なんの⋯⋯って逃げ足速っ!」
魔法を利用してゲートにダイブした。
魔法少女の身体になればとても軽く、そのままバク転して着地する。
さすがに行先が分からなければ追ってこれまい。それに、魔法少女姿だから分からん。
確かに薄暗い空間だ。木が生い茂っているのは当然なんだが、その上が全く見れん。
木によって光が遮られている訳では無いのだろう。
「さて、ダークネスウルフとやらを探すか」
紗奈ちゃんオススメの魔物ダークネスウルフ。
この暗い森と黒い毛皮のせいで発見しにくい。それを活かした奇襲を得意とする魔物。
このダンジョンでは比較的弱くて出現率も高めの雑魚魔物、そいつがレアドロで落とす毛皮はそこそこの価値がある。
レベル4と言う世界最高到達点であるレベル9の半分に差し迫ったレベル帯が行くダンジョンだ。
ダンジョン内では弱い魔物のレアドロでも数万は行くらしい。
数ヶ月の探索者歴でここまですぐにレベルを上げた人は少ないと紗奈ちゃんに褒めてもらった。
それと同時に無茶した事をブチギレられたけど。
「さて、どうしたもんかね」
オーガの里よりも暗いし配信しにくい、したとしても観にくい映像が続くのは不可避だ。
奇襲を警戒しながら進んでいるが、中々来ない。
それともう一つ大事を抱えてしまった。
「帰り道が、分からない」
理由は当然ある。
全くもって同じ見た目をした巨木が立ち並び、暗くて奥も見えない。
真っ直ぐ伸びている木しかないので方向感覚が狂うのだ。
そのために帰り道が分からない。そして、光が無い。
「ま、ステッキでライトをやれば解決なんだけど」
本当に魔物の奇襲が無いな。不自然な程に。
不自然⋯⋯と言ったら今のこの魔法少女姿も普通に不自然か。
慣れって怖いね。
「パーカー銀髪少女にしておくか」
俺の趣味全開の見た目にしつつ、探索を続ける。
アカツキのままだと厄介事も起きそうだしな。
「おや?」
遠くで明かりが見えた。
これはラッキーだ。
他の人に帰り道を教えてもらえば、何とかなるかもしれない。
さすがにダンジョンに来て帰り道の分からなくなる奴はいないだろ。
俺は明るくなった場所に向かって歩いた。
戦闘は終わったのか、音が聞こえなくなったが明かりは健在だった。
何かしらの火で光源を確保しているのだろう。
「あのーすみません。帰り道が分からないので教えていただけませんか? それと帰り道を見つける方法も教えていただきたく⋯⋯」
「ええ。良いですわよ」
俺の目の前には魔法少女の格好をした女の子が居る。
その人の髪は今も光源に使っている炎と同じで蒼色である。
とても見覚えのある顔立ちに瞳、それに声音。
アオイさんだ。ミズノは居ないっぽい。
「どうしましたの?」
「あ、いえ」
「⋯⋯もしかしてこの格好を不思議に思ってますわね?」
「まぁ、はい」
別に普段から俺も⋯⋯言いたくないので止める。
にしてもどうしてもまぁこんな偶然があるのやら⋯⋯同じレベル4か。上がってなければ。
「帰り道ですね。このダンジョンは迷わない様に目印のある木がありますわ。それを辿れば問題ないですわよ」
「ご丁寧にありがとうございます」
ん?
なんか後ろから殺気を感じるんだけど。
後ろを振り向くが何も居ない⋯⋯もしかしたら見えないだけかもしれないか。
俺はライトのステッキをなんの躊躇もなく、ぶん投げた。
「「ッ!」」
俺の腕力から放たられたライトは想像を絶する速度で飛んで行き、木々を貫いて何かを通りすがりながら照らした。
黒い毛皮だったので、あれがダークネスウルフだろう。
「ほいっと」
襲いに来てくれたので、蹴り上げて倒した。
「お強いですわね」
「あはは。ありがとうございます」
軽くお礼を言ったら、戻って来たステッキが俺の腹にぶち当たり、数本先の木に背中を激突させた。
「ごふっ」
「えっ?!」
痛いわよ。
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