物理系魔法少女、魔法少女は鬼より強し

 「本当に居ないなぁ」


 オーガの顔を蹴りながら駆け回る。


 コソコソしても効率が悪いので、ひたすら走って探している。


 金棒を持ったオーガを探しているのだが、現在はまだ見つかってない。


 「あと少しで切り上げるか」


 『ジャイアントオーガ以降動画ばえは無いねぇ』

 『アカツキちゃんが拳振るうだけでこっちは面白いけどね』

 『まじで暴走トラックよな』


 『オーガが可哀想になる』

 『暗いダンジョンでひたすら走り回る魔法少女⋯⋯シュールだ』

 『俺はまだアンデッドが来る事を期待している』


 そろそろ帰ろうかなとか考えていると、真っ黒な肌をしたオーガを発見した。


 黒と暗さで分かりにくいが、金棒を持っていた。


 『ブラックオーガ!』

 『希少種を除いたら、このダンジョン最高クラスじゃん』

 『最後の撮れ高来たね』


 んじゃ、倒すか。


 オーガに不意打ちの挨拶として、顔面にかかとを落とした。


 暴走したゴリラとかよりもちゃんとした手応えはあったが、一撃じゃ沈まなかった。


 リュックを遠くに投げた。


 探索者用のリュックに変えており、衝撃は吸収してくれる仕様だ。


 さっきの一撃で強いのは分かった。


 「俺も相手の力量を測れるようになったのかな?」


 振り向きざまのスイングを回避する。


 空中に投げ出された身体を強く捻り、回し蹴り。


 「最短で倒すっ!」


 一撃一撃で確かなる手応えを感じる。


 このまま行けば楽に倒せるだろう。このまま行けば、だけどな。


 「しっ!」


 『金棒受け止めた!』

 『痛そう⋯⋯』

 『盾でもめっちゃ衝撃来るからな』


 重い⋯⋯だけど、パワーじゃ負けねぇよ。


 「うらあああああ!」


 持ち上げて、腹に突き刺すような蹴りを与える。数歩吹き飛ぶオーガ。


 手応えはあるが、なんか少し変だな。


 「お前、攻撃を受ける前に少し下がってるな」


 当たる直前に自ら跳ぶことでダメージを減らす行動をしているだ。


 それでもダメージが無いわけじゃないだろう。手応えは確かなるモノだ。


 「そら、次行くぞ!」


 『うわ。走っただけで地面に小さなクレーターが』

 『近所に居たら最悪だな』

 『力比べすんのかな?』


 振り下ろされる金棒を左の裏拳で弾き、右の拳を強く固めて殴る。


 数歩分退るのは経験済み、だったら殴ったと同時に踏み込む。


 間合いを詰めて、常に俺の間合いに入れる。


 「後は倒れるまで殴る!」


 俺の拳が奴の顔面を捉える⋯⋯入ったと思った瞬間に間に金棒が割り込んで来やがった。


 めっちゃ硬い金属をぶん殴った。


 「いった! お前も反射系のスキルがあるのか」


 そのくらいの反動が全身に伝わった。


 前の亀は高く打ち上げて、落下の衝撃を利用して倒した。


 しかし、今回のオーガにはそこまでの重さはないだろうし、何よりも硬くない。


 打ち上げる事も難しいだろう。


 「殴りに対応されたら⋯⋯こうするかな」


 俺はステッキを金棒に姿を変えさせる。


 オーガが訝しむ。


 『目には目を』

 『歯には歯を』

 『金棒には金棒をだな!』


 『力比べが始まった』

 『どっちが真の鬼か』

 『力持ち〜』


 「オーガ、どっちがタフネスか試そうぜぇ」


 オーガに向かって駆け出し、金棒を振り上げた。


 両手で持って、振り下ろす。


 金棒で防がれ、甲高い金属音が辺りに響く。


 オーガは自分のスピードを回転などを利用して補っていた。


 「鬼と魔法少女、どっちの力が上か、一目瞭然だなぁ!」


 俺は振るスピードを上げて、オーガに襲いかかる。


 金棒を器用に扱い防がれるが、徐々に押している。


 「ごがあああああ!」


 「ぬおっ」


 蹴りを防いだ。かなり飛んだな。


 「おっと」


 吹き飛ばしたと同時に踏み込んでいたのか、オーガは目前に居る。


 「ぐぬっ」


 振り下ろされた金棒を防ぐ。金属音が鼓膜を破りそうだ。


 「うっらぁ!」


 弾いて詰め寄る。


 「まずは胴体に一発、くらっとけや!」


 胴体に横薙ぎの金棒をねじ込ませる。刹那、俺の横っ腹に強い衝撃が加わる。


 吹き飛ぶ俺。


 「ぐっ。くっそ痛てぇな」


 俺はゆらりと立ち上がり、金棒を構える。


 「行くぞゴラァ!」


 『注意、魔法少女です』

 『ヤンキー探索者じゃありません』

 『漢気溢れますね〜』


 「そらっ!」


 一撃を浴びせると、一撃が返って来る。


 金棒を持っている状態だと、避けるのが間に合わない。


 ⋯⋯そんなもんくだらねぇな。


 「鬼か、魔法少女か、どっちが強いか⋯⋯これが正々堂々ってやつだろ!」


 だから攻撃を躱さない。


 受けたらその分、倍返しだ。


 「オラッ!」


 金棒が打ち合う。そして飛ばされる。


 「おん?」


 オーガの金棒に風が纏わりつく。


 「疾風轟勁しっぷうとどろきけい


 「ならこっちも、必殺マジカルシリーズ、本気振りマジカルスイング


 風をぶっぱなすオーガに対し、俺は思いっきり振るった金棒が発する衝撃波を放った。


 その攻撃は互いに互角であり、相殺された。


 俺達の考えは同じだった。さっきの一撃を打った瞬間に、踏み込んでいるのだ。


 ほぼ同タイミングで振るわれた金棒はわずかに、相手の方が早く俺に届いた。


 「ぐっ」


 『あごにっ』

 『痛そう』

 『痛くない訳がない』


 『それでも耐えるでしょ』

 『当たり前』

 『デタラメパワーの魔法少女だぞ!』


 骨は砕けてねぇな。


 だったら歯を食いしばれ。


 「こちとら、頭は鋼よりも硬ぇぞ!」


 頭突きで返した。


 プシュッと血を吹き出すオーガ。


 「これで、終わりだ!」


 トドメに脳天に金棒を振り下ろす。

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