物理系魔法少女、クエスト配信をする

 「星夜さん。良いクエストを発見したよ」


 「お、なになに?」


 「なんか稼ぐ事を考えているっぽいから、割の良いクエスト。推奨レベル4と一個高いけど大丈夫だと思う。オーガの里って言うダンジョンなんだけど⋯⋯」


 オーガの里、そこは建造物が多いダンジョンとなっているらしい。


 名前の通りオーガなどの鬼系統の魔物が多く、クエストはオーガの金棒を持ち帰るとの事だった。


 オーガが金棒を持っている時は珍しいらしく、それを必要とした人がいるのでクエストができた、らしい。


 「鬼に金棒、オーガの金棒の入手は見つけるところがまず難しい。それと強いから注意ね」


 「おっけ」


 「それと常に夜だから、明かりの確保は大切だよ。あとは、その暗い世界に慣れておくってのも必要かな」


 「分かった。ありがと」


 俺はゲートに向かった。


 途中で目に入った。


 前の新人さん? の人が受付に座っていたところが。


 名札に『新人』とあった。翼などは健在だ。


 大丈夫なのだろうか? 俺が心配したところで何かが変わる訳じゃないけど。


 二階でとある物を購入してから、俺はゲートを通った。


 「さて、久しぶりに始めるか」


 俺はライブを始めた。


 『お久しぶり』

 『失踪したかと思った』

 『待ってました』


 『今日はなに?』

 『オーガの里?』

 『アンデッドは出るかな?』


 「今日はオーガの金棒を手に入れていきたいと思います!」


 まずは金棒を持ったオーガを探さないといけない。


 家のような建造物がいくつかあるのだが、このダンジョンに友好的な魔物は居ないと言う悲しい現状。


 探索して、オーガを何体か発見した。


 しかしそのどれもが棍棒であった。


 なるべく戦闘は避けているが、このままだとやっぱり味気ないと言うか動画ばえがないな。


 『平和だなぁ』

 『せやなぁ』

 『時々アクロバティックに動いているのにパンチラが、無いっ!』


 そうやって呑気に探していたら、背中に突き刺さる何かを感じた。


 振り向くと、水の様な何かが俺に向かって来ていた。


 「よっと」


 バク転して回避する。


 鼻腔をくすぐる匂い⋯⋯これは水じゃなくて酒だとすぐに分かる。


 前の方を確認すると、一回り大きいオーガが俺を睨んでいた。


 『ジャイアントオーガ!』

 『レアな魔物じゃん!』

 『アンデッドじゃないやん』


 『酒術かぁ』

 『さぁどうする魔法少女?』

 『もちろん魔法(物理)だよなぁ?』


 俺は大きなオーガに向かって駆け出した。


 瓢箪の中に入っているだろう酒を飲み、吐き出した。


 それが空気に触れた瞬間、炎の姿を変える。


 「しまっ!」


 形無き魔法は俺の天敵だ。なんの対策もしないで突っ込んでしまった。


 「熱いなぁ!」


 もうしかたないので、突っ切った。


 ステッキを瓢箪に向かってぶん投げたが、大きな身体からは想像もできないステップで回避しやがった。


 『ステッキの扱いが雑っ!』

 『もう形にすらこだわってないやん』

 『そのままぶん投げたな』


 酒を飲ます隙を与えずに殴りを繰り出すが、躱される。


 着地と同時に裏拳で素早く攻撃する。腹に攻撃を命中させた。


 2歩3歩と下がり、酒をばらまいた。


 「叫べ、騒げ、喚け、酒のあるところに刃あり、剣山刀酒」


 撒かれた酒が自らの意思を持っているかのように動いて、突き上げる刃となった。


 それはまるで剣の山である。


 「だがなぁ」


 そんなんで俺は止まらねぇ。


 「しゃらくせぇ」


 酒は液体だ。だからどうした?


 酒を操る魔法の一種なんだろうよ。


 こちとら、物理攻撃は効きましぇーん、とほざいた精霊すら殴っとんだ。


 「酒ぐらい、殴り飛ばしてやらぁ!」


 俺の拳が生み出す破壊力で酒の刃を全て打ち砕いた。


 『障害は!』

 『殴って!』

 『突破だ!』


 『オーガにつぐ』

 『魔法少女アカツキが通る』

 『道を開けろおおおお!』


 俺はオーガに向かって駆け出した。


 相手は魔法を打ち砕かれた事に驚いているのか、ワンテンポ動きが遅れた。


 その隙は致命的だ。


 「そら、吹き飛べや!」


 腹に突き刺すようなパンチを繰り出して、吹き飛ばした。


 血を吹き出すオーガ。それでも耐えられた。


 追撃と行こうか。


 「騒げ、喚け、酒と共に突き進め、酒槍の奏」


 酒で形成された複数の槍が俺に向かって飛んで来る。


 『アカツキの十八番来たあああ!』

 『さぁ、どれを使う?』

 『やっぱ手前?』


 俺はさっき手元に戻していたステッキをうちわに変えた。


 「オラオラオラァ!」


 力を調節して振りまくり、風を起こして槍を押し返す。


 『全部使った!』

 『さすがのオーガもびっくり』

 『行っけえええ!』


 吹き飛んだ槍を防ごうとオーガが新たな魔法を使う。


 「騒げ、酒が形成す壁となれ」


 「酒の槍を酒の壁で防げるのか」


 俺は槍を吹き飛ばしたと同時に動いていた。


 酒の壁が消えた瞬間に拳を固める。


 「回避も、防御も、間に合わないだろ!」


 全力で溜めた拳を解き放つ。


 「必殺マジカルシリーズ、本気殴りマジカルパンチ


 激しい衝撃音と共に、オーガの身体が吹っ飛んだ。


 肉片となったオーガの身体は力なく塵となって、魔石へと姿を変えた。


 ついでに瓢箪もドロップした。⋯⋯中身あるわこれ。


 飲めそうだったら、紗奈ちゃんとユリアさんとで飲むかな。せっかくだし。

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