物理系魔法少女、レイド型の魔物を見た

 確定ドロップじゃないが、なんとか落ちてくれた金棒に感謝だな。


 「痛い⋯⋯なんとか目標達成しました〜!」


 身体の節々が痛むが、徐々にその痛みが消えて行っている。


 スキルの力ってやつだな。


 「それでは、配信を終わりたいと思いますっ」


 『えーもう終わりー』

 『まだ続けようよ』

 『オーガ百体ノックしよう』


 『まだ続けて〜』

 『今夜は寝かせないで』

 『まだやろうよ』


 「あはは。それは嬉しいけど、終わらないといけない事情があるんだよね」


 そう言って終わろうとした瞬間、ダンジョンが揺れた。⋯⋯ん?


 「⋯⋯地震か? いや、そんな速報は入ってないぞ」


 しかし、その揺れはどんどん強い揺れになっていく。


 立つのが難しいくらいには揺れ始めた。


 『何事?』

 『まさか本当にアンデッド?』

 『イレギュラーか?』


 『いや、違うぞ。これは⋯⋯』

 『推奨レベル4のダンジョン限定だけど、時々起こるやつだ』

 『レイド型の魔物の出現だ』


 オーガがあちこちから逃げ惑う。その姿が視界やカメラに写る。


 だけど、そんなのよりも目を奪うのがあった。


 家を踏み壊す巨大な魔物。


 「なんじゃ、ありゃ」


 『推奨レベル4のダンジョンで稀に出現するレイド型の魔物でアンデッド』

 『それって、あれか? がしゃどくろ』

 『うっそだろ。今までとは次元ちげえぞ。ただでさえ推奨レベル足りんのに』


 『アカツキちゃん逃げて!』

 『は、無理だろ?』

 『なんで? 逃げりゃあ良いじゃん』


 『無理だな』

 『なぜ?』

 『だってその位置だと多分⋯⋯』


 『ゲートはがしゃどくろの方やな』

 『つまり、確実にエンカウントする⋯⋯そうして広範囲の魔法が襲って来る』

 『遠回りしようにも、奴の索敵範囲は広いし、何よりも眷属のスケルトンナイトを生み出す』


 『なるべく情報は与えるから、隠れてアカツキちゃん』

 『急いでギルドに報告しないと』

 『ちょっと行って来るわ』


 コメント欄が今までの比ではない程に加速して進む。


 がしゃどくろ。


 推奨レベル単位で変わるレイド型の魔物と呼ばれる一体。通称、主。


 レイド型魔物にも複数の種類が存在するらしい。


 レイド型は出現したらすぐに、様々なギルドが連携して人を集めて討伐する。


 その報酬はとても高く、推奨レベル以下ならば確実にレベルアップするとまで言われている。


 レイドと呼ばれるにふさわしい強さであり、推奨レベル4のダンジョンで出現しても、その推奨レベルは未知数。同じ種類でも強さにばらつきがあるらしい。


 今回のがしゃどくろは推奨レベル4のダンジョンで稀に出現するアンデッドのレイド型。


 サイズは当然巨大であり、一歩を踏みしめるだけで地面が揺れる。


 奴は眷属として、スケルトンナイトの大群を常に召喚して動かしている。


 スケルトンナイトに見つかったら、がしゃどくろに見つかったと同義である。


 スケルトンナイトの一体の強さは最高でレベル2と高くない。


 問題は本体の方らしい。


 強力な範囲攻撃の魔法をポンポン撃つのに、底が見えない魔力を有しているらしい。


 当然アンデッドとしての害悪な性能を誇っている。


 一定のダメージ量を超えない限り、ダメージが与えられない。


 物理攻撃、死霊魔法や闇魔法への耐性はもちろん、再生能力も有している。


 弱点は光や回復、神聖と言った魔法であり、火はそこまで有効じゃない。


 討伐の仕方は心臓部にあるコアの破壊が一番だが、そこまで行くのが大変。


 さらに無数の骨がそれを守っている。


 『アカツキちゃんの天敵っぽい感じがするね』

 『物理攻撃耐性に再生能力⋯⋯どんまい!』

 『とりま隠れましょうか』


 「励ましどうも」


 シリアスなコメントが徐々にいつも通りになっていた⋯⋯だが、変態コメントが一つもない。


 和ませてくれているのは分かる。


 「運が良ければ、あのレイド型は推奨レベル4よりも弱い可能性があるんだよな?」


 『おいまて』

 『早まるな』

 『まじでやめろ。やめて、お願いだから』


 俺は探索者だ。報酬が良いって聞いたらやるしかないじゃない。


 それにもう、紗奈ちゃんを待たせる訳にはいかないだろ。


 「ネタとか、報酬とか、ぶっちゃけどうでも良い。それは建前だ」


 『何言ってんの?』

 『やめろよ?』

 『まじで止まってね? 二時間もあれば探索者が向かうと思うからさ』


 それじゃ遅いんだよな。


 言い訳を言わずにはっきり言うべきか。


 「すみませんね視聴者さん」


 俺はスマホをリュックに入れる。ドローンカメラは稼働している。


 リュックを置く。


 俺には分かるんだ。ここでやらないとダメだって。


 報酬は確かに気になるし欲しいさ。紗奈ちゃんを待たせたくないのも本音さ。戦ってみたいってのもある。


 だけどそれよりも前にあるんだよ。戦わないといけない理由が。


 「俺はあいつから逃げられない」


 それは今の俺、全身に纏わり着いた殺意が教えてくれる。


 がしゃどくろ、あいつは出現したと同時に俺に殺意を持っている。つまり俺を狙っている。


 理由は分からない。


 どんなに逃げようとも、どんなに隠れようとも、あいつから逃げられない。


 そう感じる。


 本能かなんなのか。


 「やらないといけないのなら、やるしかないだろ」


 リュックから取り出した物達を装備する。そして、駆け出す。


 「やろうぜ、がしゃどくろ! 魔法少女が除霊してやる!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る