物理系魔法少女、不可抗力でした

 スーパーで数日分の食料、オムライスの食材も揃えてカゴに入れて行く。


 夜と言うのもあり、生肉などが割引されていた。


 「消費期限が今日だろうが明日だろうが、私の魔法で包み込んでしまえば無限になる」


 「おぉ。全主婦が羨む性能をしてらっしゃる」


 安い時に生物を買い揃えて、使い時まで封印できるとは最高じゃん。


 問題は場所を取ってしまうのと、買った事を忘れてしまう可能性がある事だ。


 秘書さんがいればそこも解決だな。


 あ、卵が割引だ。ラッキー。


 俺が最後に残った一パックに手を伸ばすと、後からスっと出て来た手が目に入る。


 その手はスっと引っ込める。


 「あ、あの。良かったらどうぞ」


 「そちらの方が早かったですよ⋯⋯良いのですか?」


 女性だった。隣に居る紗奈ちゃんを横目で見ると、怒っている様子は無い。


 セーフ。


 「はい。うちにはありますし、割引だから買いたかっただけですので」


 「そうですか。ではお言葉に甘えて良いですか?」


 とても無機質な声に瞳をした彼女は、紗奈ちゃんに許可を求めるように顔を動かす。


 俺じゃなく?


 「はい。大丈夫ですよ」


 「ありがとうございます。卵を切らしてしまい、主人がかんしゃくをあげてまして⋯⋯本当に助かりました」


 主人⋯⋯。


 一礼してから、彼女はレジに向かって歩いて行った。


 なんか不思議な感覚に陥る会話だった気がする。


 人と喋っているに、まるで機械と話しているような感じがしたのだ。


 鈍色のショート、記憶に残るな。


 「星夜さん」


 「ん?」


 「卵を弁当に使って、無くなったのを今、思い出したよ」


 「ワー」


 今日は少しお高めの卵を使った高級なオムライスに決定した。


 荷物を持って、俺達は家に向かって歩き出す。


 ここのスーパーはギルドから近い。


 それ故に家までも近いのだ。


 徒歩十分くらいで家には着くだろう。


 「さっきの人、人間だったのかな?」


 「え、急に怖い事言うじゃん。普通にレジ使ってたし、人間じゃない?」


 「あ、お化け的な事を言っている訳じゃないよ?」


 紗奈ちゃんが慌てて訂正をする。


 「なんて言うか、ロボットって言うか、人間の見た目だけどそれとは違う何か、そんな気配がしたんだよね」


 「まじかー」


 俺は会話しててそんな感じがしたが、紗奈ちゃんは気配で違和感を覚えたらしい。


 良く分からない人とは関わりを持ちたくないのだが、今日だけで二人とそんな関係を持った気がする。


 青年改めて田中くんや鈍髪さん。


 今後とも関わり合いがない事を祈っております。


 「星夜さんも何か感じなかった?」


 「気配云々は分からないけど、少し会話してたら、なんか機械と話している感覚はしたかな?」


 声とか動作とか、とにかく無機質なのだ。


 目的のために動いて会話をしている、それは本当に機械だろう。


 「だよね。なんだったんだろ? 魔物とは違うし」


 「魔物だと嫌だな。ただの勘違いであって欲しい」


 家に帰ると、紗奈ちゃんの封印が解けたのか何もできないユリアさんと、ビール缶を三本ほど空にして四本目に突入しそうな秘書さんが居た。


 くつろぐのは構わないが、散らかしすぎると紗奈ちゃんが怒るので止めていただきたい。


 「⋯⋯アンタの晩飯抜きで良い?」


 「なんでよ!」


 「つまみに酒でもうお腹いっぱいでしょ? 食べれる容量ありますか〜」


 「全然あります〜。酒とつまみは別腹って言うでしょ〜」


 「私の辞書に別腹って言葉はありませーん」


 「ほーん」


 くだらない喧嘩が始まりそうだったので、ユリアさんをチラ見する。


 すると彼女は俺の視線に気づいたのか、ため息を吐いて立ち上がった。床に手を着いて。


 「え、大丈夫なんですか?」


 特に建物が死ぬ、的な現象は起こってないけど。


 「ああ。この建物はだ⋯⋯紗奈のところの支部長が建てているからな。この力をある程度抑えてくれるのだよ。家具とかは違うから何もできないのは変わりないがね」


 ユリアさんがグチグチ言い合っている彼女達を止めた。


 紗奈ちゃんがふわふわなオムライスを完成させた。


 秘書さんのだけで少しだけ量が少なかった気がしたが、気のせいだろう。


 乗っているオム肌が綺麗なので分かんなーい()。


 「いただきます」


 うん。めちゃ美味い。


 風呂の順番は秘書さん、ユリアさん、俺、最後に紗奈ちゃんで決まった。


 特にラブコメ的な展開も無く、風呂を上がった。あったらあったで後が怖いけど。


 「あがったよ紗奈ちゃん⋯⋯どったの?」


 秘書さんとユリアさんが紗奈ちゃんを止めていた。


 「このマンションに氷河期を訪れるのを先生と一緒に阻止しました〜」


 「紗奈がここまで力を出せるとは⋯⋯成長したな」


 なんかカオスやな。


 翌日、俺は田中くんに絡まれていた。


 彼は俺の名前を知らないし、昨日の少女と同一人物だとは分かってない。


 「最近、さらに神楽さんと距離が近いぞ!」


 「気のせいじゃないですか?」


 「腕を組んで気のせいもあるか!」


 ほう。あれが腕を組んでいるに入るのか?


 今の俺の手首にかけられている、氷の手錠が目に入らぬか。


 「これとセットで、本当に組んでいると思うか?」


 「それはもう! むしろそれすらご褒美だろ! 羨ましい!」


 「⋯⋯」


 そうか。なら俺から言う事はもう何も無い。いや、何も言えない。


 ちなみにこの紗奈ちゃんの制裁は、ユリアさんが寝ぼけて俺の部屋に入って来た事が原因であり、俺は一切悪くない。


 心は揺れ動いてないが、やっぱり同じベッドで寝ていた光景はショックだったのだろう。俺もびっくりしたし。


 今後は鍵をしっかり閉めようと思う。

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