物理系魔法少女、青年に助けられた

 「貴様、逃げるな!」


 「逃げるに決まってるだろ!」


 あんな大群を相手にできる訳ないだろ。


 スピードは俺の方が速い⋯⋯と思ったが蚊の悪魔の方が少しばかり速かった。


 しかし戦闘力で言えば俺の方が高く、殴り飛ばす。


 それでも立ち上がっては、俺に迫って来る。


 「しつこいな!」


 「貴様をここで絶望させるまで、我は倒れん!」


 俺はステッキをバットに変えて、蚊の悪魔をぶん殴る。


 しかし、奴はひらりと俺の攻撃を躱しやがった。


 「単調な攻撃は避けやすいな」


 「ちぃ」


 だからどうした?


 単調なら、それを上回る力で押せば良いだろうが!


 避けられようが、俺の攻撃は止まらない。


 地面を打ち砕く。


 「ぬおっ」


 「吹き飛べや!」


 怯んだ瞬間にフルスイングを決める。


 何かしらの魔法で防ごうどしたが、それだけじゃ俺の攻撃は止まらない。


 その魔法を砕いて、貫通させる。


 「おらっ!」


 「ぐふっ」


 吹き飛ばした悪魔を放置して俺は、ゲートの方向に向かって全力で走る。


 さすがにやばいって。


 「ふん。バカめ」


 「ああん?」


 「貴様の出口は⋯⋯あっちだ!」


 「だにぃ!」


 悪魔が倒れた方向がゲートだと言う。


 俺はまっすぐ走っていたはずだ。つまりは嘘。


 ⋯⋯いや違う。


 悪魔の大群とは正反対だから⋯⋯。


 「確かにあっちだ」


 「貴様は我を攻撃するのに夢中で方向を変えられている事に⋯⋯」


 まぁ、道は特にある訳じゃないしそのまま走れば良いか。草原だしね。


 逃げるんだよーん。


 「おいゴラァ待て!」


 待てと言って待つ奴がどこにいるのか。


 そんな事も知らない悪魔など放置だ放置。


 しかし、タイムオーバーらしい。


 大群の方からそれはもう、嫌になる程の魔法が飛来する。


 「しゃらくせぇ!」


 うちわで全て消滅させる。


 これで問題ないだろう。


 「ちぃ。囲まれたか」


 さぁて、どうしたものかな。


 この場を乗り切るのはさすがに無理だぞ。


 なんとなくだが、そんな気がする。


 「聖剣エクスカリバー!」


 悪魔の大群に巨大な光が降り注ぎ、一部がごっそりと減った。


 俺も蚊の悪魔も目を飛び出す。


 「世の中の害悪悪魔共め。この勇者が相手だ!」


 それに三人の仲間がいる。


 バランスの良いパーティだと一目で分かる。


 だが問題はそこじゃない。勇者と恥ずかしげもなく名乗った男の顔に俺は心当たりがある。


 紗奈ちゃんと仲が良い事で俺に絡んできた、青年である。


 そいつが、勇者と自称している。


 「勇者?」


 「下級悪魔共が、一人を相手に寄って集って⋯⋯全てこの俺が駆逐してやる!」


 悪魔の大群が勇者達のところに行き、順番に屠られている。


 かなり強い。


 「こりゃあやべぇ。逃げねぇと」


 「おっと待て。俺は逃がしてくれなかったんだ。今度はこっちの番な」


 「貴様! 立場が逆転したらその様か! 恥を知れ!」


 「知るか! 優位なら攻める、当然な摂理だろ」


 再び蚊の悪魔と戦いが始まったが、特に苦戦する事もなく殴り続けた。


 殴りながら思ったんだが、コイツかなり丈夫だ。


 殴ってもなかなか倒れない。


 「もう、勘弁してぇ」


 「⋯⋯人間を襲わない、絶望を撒き散らさないと約束するなら、見逃してやろう」


 なんかもう面倒だ。


 「わ、分かった。契約する。だからもう殴らないでぇ」


 約束ではなく契約?


 まぁ良いか。


 これで契約成立、俺は蚊の悪魔に背を向けた。悪魔も俺に背を向けた。


 「危ない!」


 そう言って、青年は蚊の悪魔を消滅させた。殺したのかもしれない。


 見逃すと契約したのに⋯⋯。


 「君、大丈夫か?」


 俺の魔法少女衣装には特に疑問を持たずに、心配してくれる。


 「ええ」


 「コイツらは悪魔なんだ。背を向けたら殺されてしまう」


 そうでも無いけど⋯⋯。


 「あーいや。違うか。今日の事は忘れた方が良い。悪魔とは関わってはならない」


 「危険なんですか?」


 「そうだね。聞く権利はある。ああ、危険だ。奴らは絶望を起こす害悪だ。この世界の害虫だ。だから、勇者であるこの田中が仲間と共に殲滅している」


 「天使の手下かな?」


 「天使?」


 そうでは無いのか。


 じゃあ本当に勇者と言うのがあって、悪魔を倒す⋯⋯魔王じゃないの?


 あー分からん。


 俺に疑問を与えないでくれ青年。


 「忘れてくれ、と言ったがもしかしたら悪魔から関わって来るかもしれない。その時はこの俺を呼んで欲しい。俺は田中英雄アーサーだ」


 「そうですか。それでは」


 俺は走って帰った。


 これとは関わる必要無さそうだし、今後とも関わらないようにしよう。


 アオイさん達魔法少女達は勇者について知っているだろうか?


 一応、言っておく? ん〜。


 悩みながら俺はゲートを通った。


 ギリギリ遅刻では無いが、成果が乏しかったので紗奈ちゃんは苦い顔をした。


 「ごめんなさい」


 「いえ。時に運は下振れを起こすから⋯⋯待っててね。こっちももうすぐ終わりだから」


 「人間さらばだ! あ、違う。おつかれさまでした」


 紗奈ちゃんとスーパーに寄って行く。


 四人と言う、かなりの大人数になってしまった。


 そのため食材も多めに買う必要があるのだ。


 なんとも厄介な。


 「引越し初のダンジョンだし、祝いとしてオムライス作りますか」


 「お、やった。紗奈ちゃんのオムライスは特に美味いからな。手伝える事は言ってね」


 「うん」

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