物理系魔法少女、蚊の悪魔を殴り続けた

 「あ〜金稼ぎのためにこのダンジョン来たけど、配信してたら、頭脳的なアカツキちゃんで盛り上がったんじゃないか?」


 そんな事を光輝く草原で寝そべりながら呟いた。


 未だに成果は一体の亀しかないのだが、もうやる気が出ん。


 というかそろそろ帰る時間なので、切り上げるしかない。


 ここまで魔物の出現率が悪いとは思いもしなかった。


 「普通にダンジョンで殴ってた方が、絶対に金になるな。配信すりゃあ良かった。いや、撮影でも良かったな」


 後悔を残して俺はゲートに向かって歩く。


 物寂しい風景だぜ。


 「ん?」


 なにか蚊の飛ぶ音が聞こえたので上を向くと、黒い物体が落下してきていた。


 バックステップで避ける。


 「ほう避けるか」


 「きもっ」


 反射的に顔面を蹴ってしまった。


 喋っていたし、もしかしたら人間だったかもしれない。


 蚊をむりやり人の形にしたかのようなビジュアルに嫌悪感が隠せなかった。


 「こ、この我を人間風情が蹴り飛ばすとは、何事だ!」


 「良かった。魔物だった」


 「我を下等生物と一緒にするな!」


 じゃあなんだよ。


 「我は下級悪魔、蚊の悪魔だ。貴様の絶望を寄越せ!」


 「断る!」


 「ならば、むりやり引き出すまでだ!」


 なんだコイツ。


 さすがは蚊の悪魔と言うだけあり、スピードがかなりのモノだが、今の俺なら対応できる。


 こんな良く分からない相手に時間を奪われてはならない。


 余裕を持って歩いて帰っているのだ。その余裕が無くなる。


 悪魔の事は精霊から一応聞いた。


 自分を蚊の悪魔と言うのなら、倒しても問題ないだろう。


 「この我を何回も殴るとは⋯⋯」


 「だってお前、動きがワンパターンなんだもん」


 「貴様も殴るか蹴るのツーパターンだろ!」


 「はい俺の勝ち!」


 「しょうもなっ!」


 そんなくだらない茶番を挟みながら、俺はさっさと倒すべく攻撃をしかける。


 だんだんと弱腰になり始めた相手は、空に飛んだ。


 「ふん。これなら貴様はどうすることも⋯⋯」


 「え、同じ高さにジャンプすれば良いんじゃないの?」


 違うのかな?


 ま、良いや。


 「蝿叩き」


 スリーパターン目の叩くをお見舞するが、ギリギリで躱された。


 「「我は蚊の悪魔だ!」」


 「「セリフを先読みするな!」」


 蚊の悪魔がブチ切れたのか、手から赤い液体を放出する。


 「我の特殊な力、受けてみろ!」


 赤い液体は鋭くなりながら俺に迫る。


 血を操る力⋯⋯と言ったところか?


 「ふんっ! 貴様にこれを防ぐ手立てなど無い! これは液体であり固体なのだ!」


 俺はその液体を蹴り飛ばして破壊し、加速して悪魔に迫る。


 迫っているのに、放心状態なのか悪魔は動こうとしない。


 「はっ!」


 我に返った蚊の悪魔だったが、それと同時に俺の拳が奴の頭にめり込む。


 地面に倒れた相手に追い打ちをかけるように、落下の勢いを乗せた蹴りをお見舞する。


 「あ、危ない。ならばこれならどうだ!」


 蚊の悪魔が血の剣を作り出した。


 「ほう。俺に剣を向けるか」


 しかし、なんでダンジョンに悪魔なんているんだろうか?


 初めて会ったし、その辺の理由とか良く分かんないだけどさ。


 そもそもこのダンジョンに悪魔と言う魔物は出現しない。


 あーいや、魔物と悪魔は別なんだっけ?


 「我を前に余所見とは、随分余裕だな!」


 「あーいや。なんか勝てそうだったから」


 「勝てそうと言う理由だけで油断するとは傲慢な! それが命取りになるんだぞ!」


 ド正論をどうもありがとう。


 相手の斬撃を躱しながら隙を見て、手を攻撃して剣を奪い取る。


 その剣を利用して相手の腕を切断する。剣が壊れた。


 「なぜ我の血武器を⋯⋯」


 「ふっ、これが俺の魔法、略奪スティールだ」


 「なん、だと」


 適当に言ったのにめっちゃ信じるじゃん。ちょっと罪悪感。


 素直な悪魔だな。


 「なんで絶望を欲するの?」


 「絶望はとても美味なのだ! 何より俺の存在理由を高めてくれる。そして我の力を上げてくれるのだ!」


 「⋯⋯それでも下級なんだ」


 ボソっと言ったつもりが、相手の火に油を注いでしまった。


 悪気はなかった。あ、この方が悪質だ。


 「貴様! これを受けてどう対処する!」


 大量の血が鋭利になりながら、五月雨のように降り注ぐ。


 こう言う時の対処法は決まっている。


 ステッキを大きなうちわにする。


 「必殺マジカルシリーズ、本気マジカル旋風!」


 本気でうちわを振れば、それで巻き起こる風は正しく竜巻の如く。


 俺に降り注ぐはずだった魔法は強烈な風によって相殺される。


 「なんやてえぇぇぇぇ! 貴様、風魔法も使えたのか!」


 「⋯⋯そうだ!」


 キメ顔。


 「魔力を感じない⋯⋯嘘だな!」


 「そうだ!」


 キメ顔パートツー。


 「ならばなんだ!」


 「ただ本気でうちわを振った。そうだな言うなれば、ゴリ押しだ」


 そう言い切ったところで、第二波の魔法が降り注いだので、さっきと同じようにうちわで薙ぎ払う。


 刹那、悪魔が俺の懐に飛び込んで来て、ゼロ距離で魔法を発射する。


 「これならさすがに、致命傷だろう」


 障害物がないから、めっちゃ吹き飛んだ。


 痛い⋯⋯なんの魔法だろう。


 「痛いけど、我慢できる。さぁ続きと行こうぜ!」


 「ふん。茶番は終わりだ」


 悪魔が指を向けた方向を見ると⋯⋯大量の悪魔と思われる大群が迫っていた。


 「我が同胞達と共に、貴様を絶望のどん底に落としてやる」


 「はんっ! 蚊は何匹いようが、しょせんは蚊だ」


 大丈夫かな? ⋯⋯特に時間。

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