物理系魔法少女、六時までに倒せる相手だと切に願う

 紗奈ちゃんは察しが良い。


 おかげさまで、すぐに残業許可を貰えた。条件として俺の私服を選ぶ権利が紗奈ちゃんに与えられた。


 別に良いのにね。


 最速最短で向かうために荷物は全て置いて来た。


 急いで向かった。障害物は突進で破壊して進んだ。


 真っ直ぐだ。とにかく直線で進んだ。


 遅かった。


 「ミズノ。痛いでしょうが少しお持ちお願いします。バトンタッチ、こっからは俺が戦う」


 ヒーローは遅れてやって来ると言うけど、当事者になるとすごく嫌な言葉に聞こえる。いや、俺がヒーローって訳じゃないけどね。


 遅れてやって来ても意味が無い。


 遅れて来てしまったら、全てが手遅れになっているかもしれない。


 一筋の希望かもしれないけど、被害が大きいんだ。


 「思いの外数は少ない⋯⋯減らしたんだろうな。残党狩りってところか」


 さっきのデカブツくらいか? 大物は。


 どうでも良いや。


 とりあえず、全員殴る。


 その次にミズノや他の被害者を全員連れていく。なんか生きているし。


 「深く考えるのは後だな」


 走っても良いけど、念の為にゆっくりと威圧的に歩く。


 術士の使う魔法が気がかりだ。


 「ガフッ!」


 「マナウルフか」


 左側から口を開いてやって来るマナウルフに右腕を突っ込む。


 「あか⋯⋯」


 「ゆっくりしてて。俺が全てのヘイトを集めるから、もう手出しはさせないから」


 グギギと力を込めるマナウルフだが、俺の腕は噛みきれない。


 「固めた筋肉は時に鋼を凌駕する」


 振り上げて地面に向かって叩き落とした。魔石に変わるウルフ。


 ⋯⋯ま、ただ服の裏側にステッキを忍ばせているだけなんだけどね。それでも傷一つ無いのは、放った言葉もあながち嘘じゃないって事かもしれない。


 だいたいこの身体に筋肉があるかが分からん。


 「筋肉か⋯⋯」


 筋肉マッチョな見た目にしたら、筋肉も使えるのかな?


 「棍棒って⋯⋯そんなんが意味あると思う?」


 そんなのは砕いて終わりだ。


 イメージ、手刀で首を貫く様に、そして顎を指先で押し上げる。


 吹き飛ぶ頭。


 「効率的な最速最短の倒し方」


 光の弾丸が飛んで来るので、タイミングを見てキャッチする。


 「光の魔法最高だな。熱くも寒くもない⋯⋯ただ眩しいだけだ。光の熱とかは無いんかね?」


 これってどうやって攻撃してるんだ?


 ただ明るいだけの弾丸じゃ普通ダメージ出なくね?


 圧縮した光の速度で攻撃しているのか?


 それだったら、キャッチした時に多少の熱はあっても良いと思うんだけど⋯⋯。


 だいたい光速を掴める気がしない。魔法って不思議だ。


 「考えても無駄か」


 新たな術士が闇の手を伸ばして来た。こんな魔法もあるっぽい。


 術士に向かって弾丸を飛ばした。


 「お、ちゃんと倒せるな」


 魔物全員が驚いている気配がした。気のせいかもしれん。


 人狼っぽい魔物も、赤い肌をしたゴブリンも、オーラを纏った狼も、取るに足らない相手だ。


 攻撃して来たところを返り討ちにする。


 あの、現実の俺と同じくらいの身長がありそうなローブを羽織った奴、アイツがボスっぽいな。


 「何が目的か知らんが、六時が限度なんでね。それまでには倒せる相手でいてくれよマジで」


 飛んで来る魔法は全て弾く。


 何かが光るのが見えたので意識して見ると⋯⋯矢が飛んで来ていた。


 掴んで、返しておく。先端が少しだけ緑色だったので多分毒だろう。


 刺さったかは不明⋯⋯ミズノじゃなくて俺を狙ってくれて良かった。


 「そんじゃ、魔法が発動される前に!」


 走って加速する。魔法を使うには詠唱が必要らしい。


 その間で間に合う距離だ。


 「所詮は残党狩り、白熱する戦いってのは無いね。ありがたい事だ」


 頭を殴って粉砕させる。蹴りの方が早いかな?


 残ったローブ野郎にも一発殴りを入れる。


 バリン。


 ガラスを拳で砕いたかのような、爽快な破壊音が響く。


 結界の盾かな?


 「お前も術士か。魔物の種類はなんだよ。顔見せろ」


 手を俺に向けて、魔法陣を構築する。


 魔法なら掴んで、投げ返す。


 ⋯⋯集中しろ。相手の動きに。


 「ちぃ」


 一瞬でミズノの方に魔法陣を向けやがった。


 息吹のような火炎放射器のような、炎を出す魔法。


 「身体を持って盾と成す!」


 熱いけど⋯⋯耐えられる。


 残りはお前だけだ。


 「誰にも、攻撃は、させねぇぞ」


 魔法が終わった⋯⋯自己再生が発動する。


 これって魔力なのか体力なのか、未だに不明だが、動けるなら問題ない。


 「全ての元凶がお前なら、三発は殴る」


 まずは一発目だ!


 「また結界か? だがな、さっきので耐久度は分かってんだよ!」


 走った加速が乗れば⋯⋯貫ける。


 結界を貫き、アイツの顔に拳をねじ込んで、吹き飛ばす。


 フードが脱げて見えたソイツの顔は⋯⋯ゾンビだった。


 「⋯⋯ゾンビか。倒せるよね? 物理で倒せるよね?」


 まぁ考えてもしかたないし、殴るしかないよね?


 雷の輪っかが飛んで来る。色んな魔法があるな。


 そんなチャクラムみたいな見た目の魔法なら、きちんと形があるので掴める。


 殴りたいので、砕くけど。


 「なんだよ? ゾンビなのに怯えてるのか?」


 足を踏み付けて動けない様にする。


 あの男の分も砕いてやろうかと思ったけど、多分アレやったのマナウルフだし良いだろう。


 逃げられる方が面倒だ。


 「それじゃ、二発目行くぞ。さっきの合わせてミズノの手足の分だ」


 顔面を強く殴る。凹む顔。


 だけど倒れる気配がしないな。


 「三発目は俺に残業をさせたことだ」


 それでも倒れないか。地面の方がボロボロなの不思議だ。


 「この後全てのパンチは、痛めつけられた人達の分ってことで」


 ひたすら殴るけど⋯⋯効果が無いな。形が変わるだけだ。


 ダメージあると良いんだけど。


 「アカツキ、これ使え! アンデッドには効果的」


 物理攻撃効かないんじゃね? とか最悪の事を考えていたら、ミズノがポーションを渡してくれる。


 ラノベ同様、回復薬はアンデッド系に特攻があるのか。


 「大丈夫なの?」


 「うん。毒は抜けた。ポーション飲んで傷も癒えた。もう大丈夫だ」


 それにしては⋯⋯足がフラフラだ。


 「被害者の方を頼みます」


 「ああ。アカツキはソイツ⋯⋯どこ行った?」


 「え?」


 あ、アイツ足を自ら切断して逃げやがった。


 アンデッドで魔法使う奴賢いな。


 あれは⋯⋯デカブツの魔石か。


 「アカツキ急いで魔石を破壊しろ!」


 ミズノが叫んだが、遅かった様だ。


 「嘘でしょ」


 ゾンビが⋯⋯巨大化した。


 しかも俺が倒した魔物の魔石を吸収しやがった。


 本当にサービス残業になりそうで、正直泣きそうだ。


 「⋯⋯もしもあのデカブツの身体を引き継いだなら⋯⋯殴りも普通に通じる? ゾンビに殴りが通じなかった理由は帰ってから調べるか」


 一度ポーションを懐にしまう。


 「被害者は戦える状況じゃない。生きている内にゲートまで避難させて」


 「アカツキは?」


 あのミズノが心配そうな目で俺を見ている。自惚れじゃなければ。


 「言ったろ。暴れるって。それに、バトンタッチとも。選手は交代だ。今度は君が、人命救助の番だ」

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