碧水の魔法少女、ピンチになったかも

 パリン、魔石を踏み砕く。


 どれだけ倒した? どれだけ殺った?


 残りの数は?


 どれだけ居る。


 分からない⋯⋯けど、敵は居る。


 居るなら動くしかない。動けたら⋯⋯殺せ。


 「ああああああああ!」


 攻撃を防げる程、ミズノのステータスは防御に強くない。


 だから避ける。


 学習されたら、避けた場所を狙っての攻撃が来る。


 だから受け流しを入れる。受け流しが学習される。


 そしたら同時攻撃がやって来る。


 だから攻撃を弾く。バランスを崩して殺す。


 学習される。数は多い。


 「くっ」


 ワーウルフの攻撃を防ぐ。重い。


 ホブゴブリンよりも体格は良くない⋯⋯なのに攻撃力が高い。


 いつもならアオイちゃんの援護があるから、こんなヤツらはすぐに倒せる。


 でも、今は独りだ。


 「弱音を吐くな。世の中、やるか、やらないかだ」


 この攻撃を防ぐので両手は塞がっている。足も動かせそうにない。


 新手の攻撃が来る。


 「水の魔、形容槍、ウォーターピアス」


 二つの水の槍がワーウルフの両肩上に現れ、首を狙うように突き刺さる。


 力が弱まったところで脱出する。


 遮蔽物のある方へと動き出し、すれ違いざまにゴブリンの心臓を貫く。こうすれば魔石も同時に破壊できる。


 木を盾に一度隠れる。


 「ポーションを飲まないと」


 体力回復が必要だ。ポーチから取り出す。


 飲み干して、しまう。


 空瓶を利用したら、少しだけ安く中身を補充できる。


 「水の魔、付与、水刃」


 短剣に水を纏わせる。


 「ふぅ」


 心を落ち着かせ、狙いを定め、相手をどう斬るかをイメージ。


 「ふんっ!」


 木ごと近寄っていたゴブリンを切断。魔石は壊せただろうか?


 そろそろ魔法が飛んで来る。肉の盾が必要だ。


 「くっ」


 走る。付与した魔法が時間切れで解ける。


 魔法の種類は光の弾丸を飛ばす系⋯⋯他には地面が剣のように伸びる魔法、闇の手を伸ばす魔法。


 魔法武器であるこの短剣なら斬れる。対処はできる。


 術士が多い。倒さないといけない。


 しかし魔法式罠マジックトラップがあるかもしれない。飛び込めない。


 無くとも、護衛が居るので数多くの歩兵に囲まれる。


 各個撃破するなら今のやり方が安全⋯⋯だが急がないといけない。


 救出する人達の体調が分からないから。


 「もっと速く。動けよミズノ!」


 自分を鼓舞しても力は上がらない。ミズノの限界。


 独りで戦う事は少ない。だから立ち回りが分からない。


 ガムシャラに目の前の敵を完全に殺す。


 ただそれだけしかしていない。


 「後、どれくらい居る⋯⋯邪魔!」


 魔法を切り裂く。術士を攻撃しないと。


 狙いを定め⋯⋯邪魔が入る。


 マナウルフの牙は強力だ。絶対に噛まれてはならない。


 頭を突き刺し、グリンと回転させて殺し、魔石を踏み壊す。


 「しまっ!」


 その隙を狙われて、火の球が飛んで来る。


 気づくのが少し遅れたせいで、回避が間に合わない。防御姿勢を取る。


 爆ぜる火の球。


 「ぐっ」


 痛い⋯⋯熱い⋯⋯だけど立てる。


 腕は動く、足は動く。頭も回る。


 異常はない。


 火傷も治る、問題はあるか? 無い!


 魔法を撃ちたいけど、狙いを定めないといけない。


 そのタイミングを与えてはくれない。


 手数が少ない。


 「水の魔、形容ラグビーボール、ウォーターボール!」


 周囲のゴブリンを魔法で倒す。進むがワーウルフが邪魔をする。


 魔法は飛んで来る。


 ワーウルフはタイミングを完璧に合わせて魔法を避ける。魔法を諸に受ける。


 光の弾丸は太ももを貫いた。血が流れる。


 「倒れない⋯⋯倒れる訳にはいかない。ミズノは魔法少女だ。魔法少女は戦うんだ。戦えるんだ」


 足が少し震える。だからなんだ?


 まだ戦えている。魔物を殺せている。


 「次⋯⋯来い。殲滅する。戦士も、術士も、貴様も!」


 未だに行動をしない知恵者を睨む。


 「殺す、マナウルフもレッドゴブリンもワーウルフも、魔物は殺す。他人は助ける」


 駆け出す。


 「ああああああ!」


 なりふり構ってられない。


 術士を殺す。それまでは⋯⋯立ち止まるな。


 「あ?」


 落とし穴が急に出現する。⋯⋯下に見える魔物はゴブリンか。


 ⋯⋯違う。元々あったんだ。


 それが幻術か何かの魔法で見えなくしていた。


 上に魔法陣が現れて、滝のように大量の水が出て来る。


 ありがたい。水は利用できる。


 「水の魔、利用、ウォータースラッシュ」


 落とし穴に急激に落とされる。だが、魔法を使った次には上る。


 魔法によりエメラルドグリーンに変色した水が斬撃となって、各所に飛び散る。


 「⋯⋯術士は生きているのか。まぁ良い」


 再び走り出す構えをする。


 ひゅっ、風を切り裂く音が鼓膜を揺らした。同時に光の魔法で貫かれた反対側の太ももに矢が突き刺さる。


 「この程度⋯⋯」


 抜き取って捨てる。


 まだ⋯⋯動く。


 動⋯⋯かない?


 「⋯⋯あれ?」


 なぜ、ミズノは地面に倒れている。


 投げ飛ばした矢を確認する⋯⋯毒だ。


 隠れていたのか。弓兵が。


 完璧に当たるタイミングをずっと待っていたのか。


 「⋯⋯ッ!」


 おもむろに出て来るのは⋯⋯オーガだ。


 まだ居たのか。


 疲れのせいか、ダメージのせいか、毒の回りが少し早い。


 でも大丈夫。この程度の毒なら後二秒で回復する。


 「ごほっ」


 口から⋯⋯血?


 ⋯⋯あぁ、二本も毒矢が刺さってた。


 痛覚が麻痺しているのか。気づかなかった。


 「ごぶ、りん」


 迫って来たゴブリンが棍棒を振り上げる。


 ⋯⋯歯を食いしばる。


 ドンッ、ボギッ!


 「あああああああああああああ!!」


 痛覚が麻痺している⋯⋯そうじゃなかったのか?


 すごく痛い。右足が破壊された。


 痛い。苦しい。


 「ま、水の」


 オーガが足を振り上げ、ミズノの右腕に落とす。


 「ああああああああああぁぁぁ!」


 これは⋯⋯ピンチなのか。


 ⋯⋯アオイちゃんは家だろうか?


 アイツはもう帰っただろうか。


 「はは、バカみたい」


 魔物に殺されるくらいなら、自ら⋯⋯。


 ⋯⋯死ぬのは怖いな。


 「必殺マジカルシリーズ、本気マジカル踵落とし!」


 目の前のオーガが粉砕する。さらに、高速で近くに居たゴブリンとウルフも魔石に変わる。


 「なん⋯⋯で?」


 「ミズノさん⋯⋯ミズノで良いんでしたよね? 君にとって他人でも、俺にとっては立派な知り合いだ。知り合いは助ける。残業許可も貰った。⋯⋯さぁて、サービス残業といきますか」


 「⋯⋯ぐっ」


 なんでこんなにも⋯⋯嬉しいと思うのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る