碧水の魔法少女、この世には二種類の人間がいる、アオイちゃんか他人かだ
「どこだ」
林の中を駆け抜ける。少しだけ足が根っこなどに奪われる。
普段は違うダンジョンを主に活動の場としていて、そこはこのように地形が凸凹じゃなかった。
それが影響して、いつもよりもスピードが出せない。
障害物が多すぎる。
「まだ生きている可能性があるんだ。急げ。急げ!」
助けられる命があるなら、助けたい。
それはミズノが魔法少女だからじゃない。助けられたからだ。
親から虐待を受け、なんの力もなかった。
生きるのが辛くて、死ぬのが怖くて、迷い込んだ先がギルドだった。
色んな人が居て、武器を持っている人が居た。
誰もがこちらを一瞥してから視線を外す。
所詮、ミズノは周りから見たらは他人、赤の他人、死んでもどうでも良い他人。
混み始めたタイミングを見てダンジョンに入り、異変に気づいた。
ミズノは魔法少女になっていたのだ。
魔法が使えた。魔物が倒せた。
中学生だったので、本当は良くない。バレたら大変だろう。
それでも気にする事無く、魔法を使った。魔物を倒すのが楽しかった。
⋯⋯だけど、魔力切れを起こして死にかけた。
アオイちゃんに助けられたのはそのタイミングだ。
彼女は誰にも死んで欲しくないと言った。赤の他人でも助けると言った。
虐待の話を親身に聞いてくれた。親と対立してくれた。
正に、ヒーローだった。
虐待が無くなった後、アオイちゃんと一緒に魔法少女として頑張ろうと思った。
探索者になれるまでは自己訓練だけしかできなかったけど、良かった。
誰にも興味を向けられない赤の他人でも、助けれる、アオイちゃんみたいなヒーローになりたかった。
自分が助けられたから、今度はミズノが他の人を助けるんだ。
⋯⋯でも、周りは信用できる人が居なかった。
教師は嘘や隠蔽ばかり、友達はいじめが怖くて離れた、親は暴力を振るわないように最低限しか関わらなくなった。
もう、全員が他人だ。
それでもアオイちゃんだけが手を差し伸べてくれる。だからミズノは彼女だけを信じる事にした。
彼女の言う事は全てが正しい。
助けたいとは思う。他人を助けるのがアオイちゃんの意思だから。
だからミズノもやる。
ミズノはさっきまでバカだった。
この世には『アオイちゃん』か『他人』しか居ないのに、その他人に少しばかり気を許してしまった。
一緒に戦ってくれると、思ってしまった。
ミズノは一人で良い。それにここの推奨レベルは3、ミズノはレベル4。
問題は無い。
「ここか⋯⋯ようやく見つけた」
男女共に一箇所に集められている。⋯⋯背中のは刻印?
まるで何かの儀式を始めるかのようだ。
だけど関係ない。
生きているならそれで良い。後は助けるだけだ。
「ミズノは一人でやれる。他人には期待しない。⋯⋯碧水の魔法少女、人命救助を始める」
短剣を抜き、加速する。
マナウルフ、レッドゴブリン、主にこの二種類か。
術士も居る⋯⋯それに大きのが数体。ホブじゃない。
あれは⋯⋯ワーウルフか。
全員が武装している⋯⋯探索者の装備を剥いだのか。
それでも生かしているあたり、本当に儀式かもしれない。
「マナウルフは雑魚」
爪や噛みつきの攻撃を避けたら、横腹を切り裂けば終わりだ。
簡単。弱い。雑魚。楽勝。
何かしらの能力があるかもしれない。
超再生の能力があるかもしれない。
ただの捨て駒の囮かもしれない。
生贄でミズノに殺された事で新たな化け物が召喚されるかもしれない。
故に、トドメは徹底的に行い、確実に魔石に変わるまで攻撃する。
攻撃は避けて、反撃して確実に殺す。
ドロップした魔石は踏み破壊する。これを媒介に召喚魔法を使われるかもしれない。
この魔石を投擲武器として使われるかもしれない。
「⋯⋯集中」
マナウルフに乗ったレッドゴブリンがやって来る。武器は槍。
大した実力の無い奴らが知恵者の下に集い、連携を組む。
ゴブリンライダーの後ろにはワーウルフが居るのか。⋯⋯殺すのみ。
ローブを羽織って姿が見えないアイツがリーダー、ボス、知恵者か。
最終的には殲滅だ。アイツは最後。術士の魔法には警戒。
目の前の的に狙いを定める。マナウルフに左の短剣を投げる。
突き刺さったらバランスを崩して倒れる。すぐに近づく。
魔力の節約は基本。短剣で殺す。
ワーウルフの武器は長剣。片手だけでは不利。
ミズノには盾がない。だから⋯⋯使う。
「殲滅の効率化」
ワーウルフの攻撃に合わせて、倒れているゴブリンを蹴り上げて肉の盾にする。
さらに押し付けてワーウルフを転倒させる。
ゴブリンから足を離したら、投げた短剣を抜き取りゴブリンごとワーウルフの心臓を突き刺す。グリンっと回転させて全力で殺す。
それでも倒れないかもしれない。もう片方の短剣で頭を突き刺す。
攻撃したタイミングで背後からゴブリンの攻撃が来る。予想はしていた。
だから躱せる。転がって回避。
落ちている槍を拾って、ゴブリンの頭を突き刺す。短剣を回収してトドメを刺す。
「はぁ。ごくり」
唾を飲み込む。
ここまで来るのに全力で走った。ここでの戦いに集中している。
自分一人で敵の位置把握、攻撃タイミングの予測、自身の攻撃方法、その他諸々全てを考え行動する。
ミズノは頭が良くない。だから辛い。
「だからどうした。救える命があるのに、辛いからって弱音は吐くな。疲れたからなんだ。ダメージは受けてない」
問題は無い。
疲れは集中力を下げて、判断力を鈍らせるだろうが、関係ない。
殲滅して、助けるだけだ。
魔物は喉を斬れば、心臓の魔石を突き刺せば、脳を貫けば、死ぬ。
致命傷を与えれば魔物は死ぬ。
「⋯⋯来い。今までの相手と一緒にするなよ。ミズノは魔法少女だ」
【あとがき】
ミズノちゃんの話が長いのは許してください。もう少し続きます。
あと、魔法少女なのに魔法を一切使ってないのは気にしてはいけません
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