第5話 衝撃の告白

「よう、俺の考えた作戦は成功したか?」


 俺と花梨のことが気になって訪れた涼真に、俺は先程起こったことを、ありのままに打ち明けた。


「ほんと、お前は懲りない奴だな。なんで、そうやって余計なことをするんだ?」


 涼真は、サインをあげる条件は一つだけにしとけとアドバイスしてくれていたが、俺は自分の判断でもう一つ加えていた。


「仕方ないだろ。あいつの本当の気持ちが知りたかったんだからさ」


「でも、結局、分からなかったうえに、また怒らせちまったんだろ? ほんと、何やってんだか」


「なあ、度々で悪いけど、花梨と仲直りする方法を一緒に考えてくれよ」


「ちっ、しょうがねえなあ。じゃあ考えてやるけど、これが最後だからな」


「さすが、持つべきものは親友だな」


「こんな時にだけ、親友なんて言葉使うなよ。普段は悪友とか腐れ縁とか言ってるくせに」


「それはお互い様だろ?」


「だな」


 小四の頃からよくつるんでいた俺たちの関係は、そのどれもが当てはまると思う。






「仲直りするだけなら簡単だ。二宮は条件を呑んでくれたんだから、お前が平野丈のサインを渡せば、二宮の機嫌も直るだろう。でも、それだけだと、ダメなんだよな?」


「ああ。花梨が俺に土踏まずのにおいを嗅がせた真意を知るまでは、俺たちは本当の意味で仲直りできたとは言えないからな」


「前も言ったけど、それをやらせたことに深い意味はなく、二宮は単にお前とコミュニケーションをとりたかっただけだと思うぞ」


「いや。それだけで、自分の土踏まずのにおいを嗅がせるのは、どう考えてもおかしい。俺、さっき同じ経験したけど、もの凄く恥ずかしかったんだからな」


「普通に考えればそうだけど、二宮が規格外だったってことじゃないのか?」


「規格外にも程があるよ。どこの世界に、コミュニケーションをとろうとして、自分の土踏まずのにおいを嗅がせる女子高生がいるんだよ」


「二宮はそれだけお前のことが好きなんだよ」


 涼真がしれっとした顔で言う。


「はあ? お前、どさくさに紛れて変なこと言うなよ」


「変じゃねえよ。今まで黙ってたけど、二宮はもうずっと前から、お前のことが好きなんだよ」


「…………」


 涼真の思いがけない告白に、返す言葉がまったく浮かばない。


「昨日、お前から二宮のことを聞かされた時、お前の煮え切らない態度に痺れを切らしたんだと思ったよ」


「煮え切らないって?」


「二宮のことが好きなのに、いつまでも告白しないってことだよ」


「はあ? お前、なにわけのわからないこと言ってんだよ」


「とぼけるなよ。お前の態度見てたら、そんなのはバレバレなんだからさ」


 涼真がまたも衝撃的な言葉を吐いた。


「二宮はその頃から、お前のことが好きだったんだよ。でも、それを知ってるのは、多分俺だけだ」


「なんで、お前はそう言い切れるんだ?」


「二宮のことをよく見てたからさ。お前は知らないだろうけど、俺も二宮のことがずっと前から好きだったんだ」


「でも、お前、彼女いるじゃねえか」


「お前が二宮を好きなことに気付いてから、俺は自分の気持ちを押し殺して、恵美と付き合ったんだ。だって、親友の好きな子と付き合うわけにはいかないだろ?」


 涼真の口から出てくるワードが衝撃的過ぎて、思考がまったく追いつかない。


「二宮のとった行動は確かに突飛だけど、それだけお前に関心を示してほしかったんだよ。ほらっ、これを持って、仲直りしてこいよ」


 涼真はカバンから平野丈のサインを取り出して、俺に渡してくれた。


「それ、知り合いからもらったって言ったけど、本当は恵美にあげようと思って、俺が手に入れたものなんだ。あいつも平野丈の大ファンだからさ」


「えっ、そんな大事なもの、俺がもらっていいのか?」


「ああ。その代わり、今度こそ本当に仲直りしろよ。で、ついでにその後、告っちゃえ」


「それができたら、こんなに苦労しねえよ」


「まあ、それもそうか。じゃあ、俺もう帰るわ」


 涼真は俺の心を揺さぶるだけ揺さぶり、やり切った顔で部屋を出ていった。

 





 


 

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