第2話 リベンジなるか?

──はあ。あいつ、一度ああなると、なかなか元に戻らないからなあ。


 結果的に花梨を怒らせてしまった俺は、弁当を食べながら、どうやって彼女の機嫌を直そうか思案していた。


「智樹、なんでそんな難しい顔してんだよ」


 小学校からの悪友、渡辺涼真わたなべりょうまが俺の顔を覗き込むようにしながら訊いてきた。


「別になんでもねえよ」


「嘘つけ。何もないのに、そんな顔するわけないだろ。早く言って楽になっちゃえよ」


「ほんと、お前にはかなわねえな。じゃあ言うけど、他の奴には内緒だぞ」


「わかった」


 俺は昨日あったことをすべて打ち明けた。


「マジか! まさかあの二宮がそんなことを……」


「まあ、お前が驚くのも無理ないよ。俺だって、半信半疑なんだからさ」


「でも、その行為はともかく、俺は二宮の気持ちがなんとなく分かるな」


「えっ、どういうこと?」


「お前ら、小学校の時はあんなに仲が良かったのに、最近は話すらほとんどしてないだろ?」


「そりゃあ、昔のようにはいかねえよ。異性の幼なじみなんて、皆そんなもんだろ?」


「お前はそうでも、二宮は今でもお前と仲良くしたいと思ってんだよ」


「なんで、お前にそんなことが分かるんだ?」


「二宮の態度見てれば、そのくらい分かるさ。ていうか、気付かないお前が鈍感なんだよ」


「悪かったな。どうせ俺は、女心なんて、これっぽっちも分からない鈍感野郎だよ」


「開き直るなよ。で、これからどうするつもりだ?」


「どうって?」


「二宮を怒らせたんだろ? どうやって仲直りしようと思ってんだよ」


「それをさっきから考えてるんだけど、いいアイディアが浮かばなくてさ」


「じゃあ、もう一度同じことをすればいいんじゃないか?」


「同じこと?」


「ああ。もう一度、二宮の土踏まずのにおいを嗅いで、今度は余計な事を言わなければいいんだよ」


「なるほどな。でも、どう切り出せばいいんだ?」


「『昨日は悪かった。もう余計なことは言わないから、もう一度お前の土踏まずのにおいを嗅がせてくれ』って頼めばいいんだよ」


「それだと、なんか俺があいつの土踏まずのにおいを嗅ぎたがってるみたいじゃないか」


「じゃあ、どうするんだ。『しょうがないから、もう一度お前の土踏まずのにおいを嗅いでやるよ』とでも言うのか?」


「そんな上から言ったら、あいつ怒り出すに決まってるよ」


「だろ? やっぱり、さっき俺が言ったようにするしかないんだよ」


「ああ、なんか気が重いな」






 放課後、俺は花梨を屋上に呼び出し、涼真に習った通りに言ってみた。

 すると、彼女は割とあっさり受け入れてくれ、「じゃあ、誰もいないことだし、ここでやろうか?」と大胆に言ってきた。


「えっ! さすがにここはまずくないか? いつ人が来るか分かんないし……」


「その時は、ストレッチを手伝ってもらってたとか言って、ごまかせばいいよ。じゃあ、やろう」


 花梨はそう言うと、さっさと靴下を脱ぎ、手でスカートを押さえながら、俺に向かって足を投げ出してきた。

 そのエロい恰好と、いつ人が入ってくるか分からない状況に、俺は昨日とは比べ物にならないくらいドキドキしながら彼女の足を持ち、土踏まずに神経を集中してにおいを嗅いでみた。

 すると、昨日同様、土踏まず自体ににおいはなく、他の部分が微かににおう程度だった。

 

──昨日はここで正直に言ったばかりに馬鹿を見てしまった。今日は絶対その二の舞にはならないぞ!


 俺はそう決意し、親指と人差し指で輪っかを作りながら「合格だ!」と高らかに言った。 

 そしたら……。





「はあ? 合格ってなに?」


 花梨がなぜか昨日と同じようにキレ始めた。


「合格だから合格って言ったんだよ」


「それって、におわなかったってこと?」


「そうだけど」


「じゃあ、そう言えばいいじゃない! なによ、合格って!」


「そんなの、どっちだって一緒だろ!」


「一緒じゃないよ! ちょっとしたニュアンスの違いで、言葉の意味合いが全然違ってくるんだからね!」


「そんなの知らねえよ!」


「ほんと智樹って、女心が分かってないんだから。もう今後一切わたしに話し掛けないで!」


 花梨は強烈な捨て台詞を吐きながら、足早に去っていった。

 俺は返す言葉が見つからず、黙ったままその後ろ姿を見送ることしかできなかった。 



 


 




 


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