10 さらばウラリス王国


「ど、どうでしょうか? 似合ってますか……?」


 リリィが恥ずかしそうにたずねる。


「ああ、可愛いと思う」

「っ……!」


 リリィが息を飲んだようだ。


「どうした?」

「か、か、可愛い……えへへへへ」


 めちゃくちゃにやけている。


「リリィ……?」


 可愛いアクセサリーだと思うぞ。


「えへへへへへへ……うふふふふふふふ」


 いや、にやけすぎだろう、さすがに。


 そう思いつつも、俺は素直な反応をする彼女を好ましく思うのだった。


 その後、今度は土産物屋に向かった。


「『青の水晶』のみんなにもお土産を買っておこう」


 そう思いついて、リリィに付き合ってもらったのだ。


 さすがに王都内の店だけあって、内部は広く、品物も充実している。

 俺はリリィとともに店の中を見て回った。

 小物やアクセサリー類、後は珍しい菓子類なんかも買ってみた。


「俺の方も付き合わせちゃったな」

「いえ、あたしも『星帝の盾』の人たちにお土産を買いましたから。一緒に来られてよかったです」


 俺たちは微笑み合った。




 三日後、俺とリリィ、マーガレット、ミラベルはウラリス王国を出立することになった。


「今度は戦いじゃなく、観光で立ち寄ってね、みんな」


 別れ際、マルチナが寂しそうにしていた。

 特に彼女と仲がいいらしいリリィは、ちょっと涙ぐんでいる。


「絶対、また来ますからっ」

「ふふ、楽しみにしてるね」

「はいっ」

「まあ、世話になったな。いちおう礼を言っておくぜ」

「報奨金おかわりほしい」


 ぶっきらぼうに礼を言うマーガレット。

 ミラベルはどさくさに紛れて、何言ってるんだ。


「本当にありがとう。みんながいたから光竜王を討伐できたんだ。最高のチームだったよ」


 俺は皆を見回した。


「――まあ、この中にヴィクターさんがいないわけだけど、当然あの人も含めて、な」

「ヴィクターさん……今、どこにいるのかな」


 マルチナは心配半分、苦笑半分という顔だ。

 それは俺も同じ気持ちだった。


「方向音痴だからなぁ……」


 そう、王都に滞在している間に、ふらりと外出したヴィクターさんはそのまま迷子になり、戻ってきていない。

 きっと今も、この空の下のどこかで――迷い続けてるんだろう。


「きっと、そのうちフラッと再会するさ。たぶん、きっと……」


 また会えたら……いいなぁ。




 ――こうして。


 様々な思いがありつつ、俺たちはウラリス王国を後にした。


 光竜王との激しい戦いを制し、十分に休養を取った。

 英気を養えたから、またこれからも冒険者としてがんばろう。


 俺自身のこともそうだけど、何よりも『青の水晶』をもっとランクの高いギルドへと押し上げるために。

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