9 リリィとの、とある日常
今日はウラリス王都に買い出しに来ていた。
もうすぐ元の町に戻るので、旅行の準備である。
「あれ? リリィか?」
大通りを歩いていると、服飾屋でリリィらしき姿を見かけた。
「っ……! レイン様――」
ハッとした顔で振り返るリリィ。
慌てたように店から出てくる。
「あ、悪い。買い物中だったか」
店は、若い女性に人気の服飾店のようだった。
前にニーナやメアリから聞いたことがある。
「あ、あたしがこういう店にいるのは……おかしいですか?」
リリィはモジモジとしている。
いつも凛としている彼女にしては珍しい態度だった。
「? おかしくはないだろ。ここは若い女性がメインの客層みたいだし」
「いえ、その、あたしのような戦いばっかりやっているような女が、こういう店にいるのは変じゃないかな、と思いまして……」
「変だとは思わないぞ。戦いばかりやっているとしても、他に興味を抱くことがあったって不思議じゃないし。リリィは剣も好きだし、こういうファッションも好きなんだろ」
「……よかった。変に思われたらどうしようかと」
リリィがホッとした顔をする。
「あ、あの、よかったら……ちょっとだけ、お付き合いいただけませんかっ」
リリィが身を乗り出した。
「お付き合い?」
「っ……! あ、その、一緒にお店を巡ってほしいということで、つまり、あの、こ、こ、交際の申し込みではないので……っ」
「はは、分かってるよ」
俺は思わず苦笑した。
いくらなんでも、こんなタイミングとシチュエーションで交際の申し込みなんてされるわけがない。
いや、そもそも俺とリリィが恋人同士になるなんてピンと来ないけど……。
「……交際したくない、という意味でもないので」
「えっ」
ぽつりとつぶやいたリリィに、俺は怪訝な気持ちで首をかしげた。
今の、どういう意味だろ……?
俺はリリィと一緒に店を見て回った。
「あのペンダント、素敵だと思いませんか?」
「すごい、あれ可愛い~」
「ねえねえ、レイン様、次はあの店に行きましょう」
と、リリィは大はしゃぎだった。
「リリィも、そういう顔をするんだな」
しみじみとつぶやく俺。
「えっ」
「いや、ほら、普段は戦っているときの凛々しい感じのリリィしか見ないからさ」
「えっ、あ……えへへ」
リリィは照れたようにはにかんだ。
「変……ですよね。あたしの、こういう姿って」
「変じゃないぞ。珍しくはあるけど、こういう一面も新鮮でいいと思う」
俺はにっこり笑って言った。
「そうだ、さっき素敵だって言ってたペンダント、よかったらプレゼントしようか?」
「えっ」
「ほら、光竜王討伐のときは、なんか俺ばっかり褒賞をもらっちゃったし。せめて、他のメンバーにもちょっとでも還元したいな、って」
「そんな……」
「いいだろ、な?」
「……レイン様のお気が済むなら、喜んで」
いったん遠慮した彼女だが、俺が再度頼むとうなずいてくれた。
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