11 ニーナとの再会と未来


「ただいま、ニーナ」


 俺は『青の水晶』の建物に入ると、まっさきに受付にやって来た。


 ちょうど客は誰もいない。

 カウンター越しにニーナに微笑む。


「レインさん!」


 ニーナの顔がパッと輝いた。


「元気だったか」

「は、はい……!」


 あれ? ニーナ、なんかちょっと泣いてないか?


「寂しかった……」

「えっ」

「早くレインさんが帰ってこないかな、って毎日思ってました……」


 言いながら、ニーナは涙声になっていた。

 そんなに寂しかったのか……。


「悪い。思ったより長く、向こうの国にいることになって……」

「いえ、だいたいの話は聞いています。光竜王を倒して、勇者級の活躍をされたんですよね? すごいです、本当に――」


 ニーナが俺に向かって微笑んだ。

 ほとんど泣き笑いだ。


「私たちのギルドの、誇りです」

「い、いや、はは……」


 ものすごくストレートに言われて、俺は照れてしまった。


「あ、そうだ。これはお土産」


 と、ウラリスの王都で買ったペンダントを渡す。


「えっ、私に!?」

「ああ。気に入ってもらえたらいいんだけど……」

「わあ、可愛い! 嬉しいです」


 包みを開けたニーナは表情をほころばせた。


「ありがとうございます、レインさん!」

「はは、ささやかなプレゼントで悪い」

「すごく嬉しいです。大切にします――」


 ニーナがまだ涙ぐんでいる。

 けっこう涙もろいんだよな、ニーナって。


「ふふ、こうして話すのは本当に久しぶりです」


 ニーナがしみじみと言った。


「そうだな」


 俺もしみじみとなってうなずく。


「ニーナと一緒の食事をしていると、ホッとするよ。最近は光竜王との戦いが激しかったからな……」

「大変だったと聞いています。ご無事で戻られてよかったです。レインさんも、みなさんも……」

「ああ。全員無事で本当によかった」


 俺はニーナに微笑んだ。


「そういえば、レインさんがS級冒険者に推されるみたいですね」

「えっ」


 初耳だった。


「ふふ、情報の早さならちょっと自信があるんですよ、私」


 ニーナが微笑む。


「私たちのギルドからS級冒険者が出るなんてすごいです。本当に誇りに思います」


 ニーナが嬉しそうに目を細めた。


「ニーナはずっと今のギルドで頑張ってきたんだよな?」

「十二歳のときに見習いとしてここに入って、それから五年くらいですね」


 と、ニーナ。


「エルシーさんは当時は副ギルドマスターでしたけど、その下でずっとがんばって……エルシーさんがギルドマスターになってからも、自分なりになんとか力になろうって……『青の水晶』はまだまだ弱小ですけど、私……このギルドが好きです」


 目がキラキラと輝いている。


「エルシーさんやメアリ、ここに集まってくる冒険者の人たちみんなが大好きです。もちろん、レインさんのことも……!」

「俺も、このギルドが好きだよ」


 ニーナに微笑む俺。


「だから、『青の水晶』には一流ギルドになってほしい、って思ってる」

「一流ギルド……」


 どうせなら『王獣の牙』を超えるくらいに。


 そう思ったところで、気づく。

 いつの間にか――『王獣の牙』のことを考えても、気持ちがモヤモヤしなくなっている。


 もちろん追放された怒りや悲しみが完全に癒えたわけじゃない。


 俺だって人間だ。

 そういう負の気持ちは残ってる。

 たぶん、これからも残るだろう。


 でも、それを圧して余りあるくらいに――今のギルドが気に入っている。

 ニーナたちと過ごす時間が楽しくて、幸せだ。


 だから、がんばれるんだ。


 だから、もっとがんばりたい、って思うんだ――。

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