9 来たる使者

 しばらくして光は消え、合体していた二本の剣はそれぞれ俺とヴィクターさんの手元に戻った。


「一体、なんだったんだ……今のは……」


 俺は剣を見つめながらつぶやいた。




『「翠風の爪ローゼリア」による機能増幅モードを作動。「燐光竜帝剣レファイド」に記録された「地図」を表示します』




 さっき流れた音声を思い出す。


「機能増幅モード、か」


 ヴィクターさんが同じく剣を手にしてつぶやいた。


「もしかしたら、この剣はあなたの剣の――いや、あるいは光竜王を封印した三本の剣の補助パーツのようなものかもしれないな」


 ヴィクターさんが言った。


「補助パーツ?」

「さっきの音声――『翠風の爪ローゼリア』による機能増幅モード、というのはそういう意味じゃないかと思ってね」

「なるほど……」


 言われてみれば、その可能性はある。


「じゃあ、あの地図はなんだと思いますか?」

「それは分からないな……このあたりの地形ではなかったし、私にはちょっと覚えがない。そもそも地図を覚えるのは苦手だし」


 苦笑するヴィクターさん。


 極度の方向音痴だもんな、この人。


「俺、ヴィクターさんを訪ねようと思ってたんです。ちょうどよかった」

「私を、か?」

「ヴィクターさん、前に会ったときに『自分の剣を友人の鑑定術師に見てもらう』って言ってたでしょう? あれ、どうなったのかな、って」

「ああ、友人にはまだ会えていない。彼の家までたどり着けなくてね、ははは」

「あ、そう……」


 思わずジト目になる俺。

 まあ、半ば予想通りだけど……。


「何か分かれば、あなたにも知らせよう」

「とりあえず、ヴィクターさんと確実に出会える方法を確保させてくださいね……」


 俺は懐から小さなペンダントを取り出した。

 以前に用意したもので、+300の強化ポイントを付与してある。


「これは――?」

「探知用の魔法道具です。これをなるべく持っていてください」


 ちなみに、俺自身が使っているアイテムにはもっと大量の強化ポイントを注ぐことができるんだが、その『所有権』が俺以外の他者に移った瞬間、強化ポイントは上限の300まで落ちてしまう。

 差分のポイントは俺の手元に戻るようだった。


 つまり、+10000くらいの探知魔法具を作ったとして、それを他者に渡すと、+300の魔法具に性能が下がってしまう、ということだ。

 いずれ、もっとレベルが上がれば、この上限も上がるらしいが、それはいつになることか――。


「なるほど。私の居場所が分かれば、私自身は道に迷っても、あなたの方から見つけてくれるわけか」

「ええ。プライバシーの問題があるので頼みづらいんですが……常に身につけなくても、時々でいいので持ってもらえるとありがたいです」

「私は助かるし、なるべく身に着けるようにしよう。気遣い、痛み入る」




 それから数日後、俺のもとに一人の使者が訪ねてきた。


「ウラリス王国から参った者です。レイン様にご伝言を」


 その使者――初老の男が一礼した。


「伝言?」

「マルチナ様からです。『封印装置の解析が終わった。対光竜王への最終作戦を実施するため、ウラリス王国に来てほしい』と」

「最終作戦――」


 俺は気持ちを引き締めた。


 つまりは、光竜王を封印するための作戦、ってことだよな。


「いよいよ――か」

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